(以下、コラム記事を転載しています) ****************************************************************************
<<名門中の名門企業、GE(ゼネラル・エレクトリック)がダウ平均銘柄から外されたことで、同社の経営戦略に対する疑問符や経営陣の手腕への批判が噴出した。しかしそれはお門違いだ。>>
「ダウ平均銘柄からGEが外された」という報道を最近耳にした方がかなりおられるだろう。その際のニュアンスは「時代の波は遂に名門GEさえも置き去りにした」というものだ。つまりGE(ゼネラル・エレクトリック)が時代遅れになってしまい、日本の報道機関ではまるで東芝のような『名門企業の凋落』の象徴として捉えられたようだ。
『ダウ平均』とは正確にはダウ工業株30種平均。ニューヨーク株式市場(NYSE)に上場する米大手企業の代表的株式銘柄を象徴してきた経緯があり、その構成銘柄から外れるというのは長年、いわば「もう米国を代表する企業じゃない」と宣告されるようなものだった。
ダウ平均の創始期から構成銘柄だったGEが外れるというのはニュースバリューがあり、そのニュースが全世界を駆け巡ったのは当然だ。実際、GEは近年株価を下落させており、経営陣は株主から大いに批判されていた。その流れでの「ダウ平均銘柄から外れる」という宣告はあたかも名門GEの経営陣への失格宣言のようなものに聞こえ、経営不振による時価総額減少がその理由として真っ先に思いつくようだ。
しかし実態は少々違う。確かにGEの直近の4半期業績は98億2600万ドル(約1兆円)の赤字と凄いことになっており、最近の株価下落(過去1年間で約半分になった)はそれをもろに反映したものだ。しかしその中身をよく見ると新会計基準の適用と果敢なリストラがその主要因と分かる。
具体的には保険事業の評価見直しによる特別費用の計上など各種リストラ費用が増加した一方で、主力の一つである電力事業の営業利益が9割減と大幅に落ち込んだことが大きい(だからこそリストラの大ナタを振るっている)。そして新会計基準の適用により過去2年間の利益を下方修正し今後の減配を実施する方針を発表したことも、機関投資家による株式売却を促したようだ。
端的に言って同社の事業概況は、世界的なエネルギー需要の変革期にあって目先の投資意欲を減退させた電力会社という重大顧客に対する依存度を下げる必要性が加速した一方で、産業機械のデジタル・トランスフォーメーションを実現するためのPredixプラットフォームおよび一連のIoTサービスがまだ大きな収益にまでは結びついていないことを意味している。
しかしながらこの「インダストリー4.0」戦略は間違いなく世界のインフラ産業・工業の向かう道を先取りしており、GEの経営は「自社のトランスフォーメーション(変革)に手間取り過ぎている」との批判は当たっていても、方向性が誤っている訳ではない(ゆえにやがてGEの株価は大きく揺り戻すと小生は信じている)。
しかも過去1年ほどの株価下落があったとはいえ、GEの時価総額は今なお1200億ドル(約14兆円。7月15日現在)以上ある。かってのライバルであるウェスティングハウスなどとは違い、その巨額さからいっても相変わらず「米国を代表する企業」の一つであることは変わりない。むしろ、製造業が衰退した米国にあってなお世界の製造業の向かう方向を先取りする存在というのは大したものだと言わざるを得ない。
そしてもう一つの米国を代表する製造企業、米建機大手のキャタピラーの時価総額は825.56億ドルで、過去1年で30%前後の株価上昇を示した同社はダウ平均銘柄に留まっている。一方、今回GEと入れ替わりにダウ平均銘柄に採用された米ドラッグストア大手のウォルグリーン・ブーツ・アライアンスの時価総額は636.95億ドル(7月15日現在)と、GEの半分程度。ここに今回の銘柄入れ替えの真の意味合いが現れている。
まず、世間で思われているような「ダウ平均=米国を代表する時価総額の大きい巨大企業の集まった株式指標」といった構図ではないのだ。むしろポイントは株価だ。GEは時価総額も大きいが株数も多く、株価は14ドル弱。しかもここ2年程度で半減した。一方、キャタピラーは過去2年半で60ドル弱の底値から135~150ドルのゾーンにまで着実に踏み上げ、ウォルグリーンはこの2年で60~85ドルの間で振幅している。
実はダウ平均は時価総額ではなく、株価を基に算出される。そのためGEの株式が急落した17年でもダウ平均は史上屈指の上昇を記録している。つまり、ある程度の高株価でないとダウ平均銘柄としての影響力がなくなってしまうのだ。そして株式市場が最高値を更新し続ける市場環境において低迷を続けるGE株式はむしろ、ダウ平均にとって「具合の悪い存在」だったのだ。
ダウ平均銘柄の入れ替えを決める指数委員会は「製造業はもはや米国を代表する産業ではない」と今回の入れ替え措置の理由を説明したが、「元々株価が安い上に、このところの株価が冴えないので切った」というのが実態なのだ。ここにはダウ平均の存在意義をうまく説明できていない指数委員会のもどかしさも現れている。
報道機関の多くでは相変わらずNYSEの市況を表すのにダウ平均(「NYダウ」などとも称される)を最優先に使っていることが多いが、世界の金融機関はS&P500種株価指数を重視することが多い。なぜなら時価総額を反映しているので、年金運用の主流であるインデックスファンドが連動させる指標としてふさわしいからだ。
つまりGE株がダウ平均銘柄から外れたのは、GEが時代から取り残された訳でも、米国を代表する企業でなくなった訳でもない。むしろダウ平均の存在意義が怪しくなっているからなのだ。