EVワイヤレス給電は社会経済的に有意義か?

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EVワイヤレス給電ってご存じでしょうか。電気自動車(EV)の走行中に道路の路面から車両へ無線で電力を供給する仕組みのことです。

磁界共振結合技術というものが基礎技術で、道路に埋設した「送電コイル」に85kHz前後の高周波数の交流電流を流すと、電磁誘導の原理で交流磁界が発生します

ここに車両に搭載された「受電コイル」が近づくと、送受電コイル間で交流磁界が交互に発生して共振する際に、同時に電磁誘導の原理で受電コイルに誘導電流が流れてEVに給電できる、という仕組みです。

つまり道路と車両の両方に送受電用のコイルが備えられている必要がある訳です(ここが重要な点です)。

この「EVワイヤレス給電」、確かにメリットは明確なのです。今、EV普及の最大阻害要因は、急速充電スタンドが十分にないため長距離移動の際に電欠の心配が拭えず(仮に見つかっても普通充電では1時間前後もスタンドに釘付けになってしまう)、実用性に欠けるからです。

それに一戸建ての住民は充電スタンドを新たに設ける必要がありますが、ともかく何とかなります。それに対し、マンション住まいの人はマンションに充電設備がない限りPHV(プラグインハイブリッド車)は買う訳にいきません。

EVそのものも安くできます。道路から電力を受けられるようになることから、EVに積載する蓄電池の容量を大幅に減らせるでしょう。EVのコストの結構な割合を占める蓄電池を小さくできるなら、1台当たり30万~60万円も安くなると指摘されています。

クルマも軽くなって操舵性も向上します。それに原料のほとんどを海外に依存しているリチウムイオン2次電池の利用量を減らすことになりますので、地政学的リスクも減らすことにつながります。

結構尽くめに聞こえますよね。でも肝心な視点が抜けています。インフラ側の整備費用は日本全国の高速道路と一般道で計約7兆円かかると推測できるのです。

橋やら道路・トンネル(そして地下に埋められた上下水道管などを含め)など全国の老朽化したインフラをどう維持するかに四苦八苦している国・県・市町村のどこを突けば、EVのためだけにそんな予算が出てくるというのでしょう。

そしてもっと大事な点は、それなりの金持ちであるはずのニッポンでもEVワイヤレス給電のためにそんなインフラ整備費用を捻出するのに気が遠くなるほど難しいというのに、世界を見た時に同様に「よし、我が国でもEVワイヤレス給電をやろう!」などと同調してくれる国はほぼゼロか、(仮にいても)ごくわずかだと言わざるを得ません。

国土が広い米国・カナダ・ブラジル・中国・インド・ロシアなど、EVの将来台数を見込める国ほど乗ってきません。豊かでない途上国も無理です。精々あってもEV好きで国土が限られている欧州の一部だけでしょう。

ということはワイヤレス給電対応のEVなんてほんの限られた台数しか年間で売れないということになり、その特殊構造のクルマは割高になること請け合いです。へたすると蓄電池が安くなる分以上に製造コストが高くなってしまう可能性すらあります。そうしたら何のためにワイヤレス給電にするのか、全く意味不明です。

こんな特殊な「国内仕様」のクルマ、今のグローバル企業であるクルマメーカーは作ってくれませんよ(最近、国内でしかユーザーが見込めない2輪車「スーパーカブ」が惜しまれながら生産中止が決まりましたね)。

まったく「国内だけしか視野にない」ガラパゴス的発想なのですよね。

とまぁ、一生懸命にEVワイヤレス給電の開発業務に精を出している一部メーカーや研究者の方々には気の毒なのですが、(新規事業開発プロジェクトで私がよく着目する)社会経済的な意義と世界的な市場性という観点からいうと、この技術の普及見込は薄いという結論になってしまいます。