世界のEV(電気自動車)市場はこのところ停滞気味です。
一時期、急速に伸びていた中国市場は、景気低迷が深刻化するのと共に、政府の補助金が減額されるにしたがって、成長鈍化がかなり明白になっています。それにつれて競争がさらに激化し、「雨後の竹の子」状態だった現地メーカーの中には倒産するところも出ています。
同様に世界の中心市場と目された米国市場は、中国メーカーが事実上締め出されているため、本来なら他国のメーカーにとっては「非常においしい市場」だったはずです。しかし実際には、富裕層の需要が一回りしたのに後に続く需要層に欠けるため、急速に悪化しています。
先行したテスラだけは何とか一定の生産量を維持しているようですが、他の現地メーカーや外国メーカーは青色吐息状態のようです(日本メーカーは実質「試合放棄」状態です)。
欧州市場も同様の状況です。こちらは中国や韓国のメーカーが自国・他国市場での伸び悩みの分をカバーしようと躍起になって販売を強化し思い切った価格政策に走っているため、完全にレッドオーシャン化しているようです。それに対し日本市場は端から動きがありません。
いずれの市場もEVと同等またはそれ以上にハイブリッド車(HV)・プラグインハイブリッド車(PHV)が伸びています。EVの加速のスムーズさや、燃料代と電気代の差に注目が集まったせいで、航続距離への不安が少ないHV・PHVは、その「いいとこ取り」の選択肢として一般消費者から支持されているようです。
EVについては、富裕層なら2台目・3台目という位置づけなので航続距離はあまり気にならないけれど、やはり一般の消費者が普段乗り回すには航続距離に不安が生じる(チャージできる電気スタンドが限られているから)という点は、EV市場の最も重要なボトルネックとして対処すべきものです。
私も以前にコラム記事で指摘しましたが、特に日本市場では充電設備自体が非常に限られている上に、その大半が普及型であり、急速充電器の設置は甚だ限られているのが実情です。
もう一つの隠れた「EV普及の阻害要因」は中古EVの下取り価格がかなり安いことです。新車価格も高いのですが、それは補助金である程度補われます。しかし買い替え時の下取り価格が安いことで、購入金額と比べての値下がり度合いがガソリン車と比べて格段に大きいのです。これに気づいている人はEVに手出ししません。
これはEVのコストの大きな部分を占めている電池の劣化程度が分かりにくいためです。それまでの使用状況による個体毎の劣化度合いがかなり違う上に、車両に据え付けられた状態ではうまく評価できないのです。
劣化の度合いを正確に評価するには、車両から電池を取り出したうえで、構成部材の劣化状況を直接調査するのが理想です。とはいえ、そのような評価方法を採ることは現実的に難しく、走行距離や使用年数から大まかな劣化度合いを推し量ることしかできません。
結局、根拠がないまま中古EVを買い取ることになるため、どうしても劣化の度合いを多めに見積もってリスクを最小化せざるを得なくなるのです。だからEVのリセールバリューは低水準にならざるを得ないのです(したがって中古EV価格も安いのです)。
さて、長々とEVの普及に向けた障害・ボトルネックを論評してきましたが、こうしたことは頭の良い人がいっぱいいる自動車メーカーだって十分理解して着々と手を打っているはずだと、私も最近まで考えていました。
しかしあるビジネス雑誌でEV市場に関する特集の中に、日系の大手自動車メーカーのマーケティング担当責任者のコメントが載っていました。いわく
「(日本市場での)EVの普及が遅いことに関しては消費者の方々の食わず嫌いの側面が大きいと考えています。是非、一度実際に乗って、その良さを実感していただきたい」
といった趣旨のことを話されていました。根本的にズレているなぁと感じました。
この感覚って、30年ほど前に日本の電気メーカーが我が世の春を謳歌していた時期に、米国の逆転攻勢策が色々と見えてきたのに、日本の大手メーカーの経営陣が「全然心配する必要はない」と息巻いていたときとまったく同じです。大いに不安です。