小生が常日頃声を大にして訴えている通り、プロセスは大切である。この事件では関係者が一つひとつのプロセスを大切にしなかったことが重大な事態を引き起こしたと感じる。
カネボウ化粧品は11日、同社の美白化粧品で約1万人に「白斑」被害が出ている問題について、外部弁護士による第三者調査報告書を公表した。報告書によると、同社に顧客から白斑の被害が最初に寄せられたのは11年10月。12年2月には販売部門の販売社員3人にも白斑が発症した。12年9月には大阪府内の大学病院から「化粧品が引き金となった可能性がある」と指摘を受けたが、病気が原因として処理した。今年5月、被害者を診察した医師から症例報告を受け、社内調査を開始。美白化粧品に配合した「ロドデノール」という物質が白斑の原因と判断し、商品の自主回収を決めた。
報告書は昨9月の時点で対策を講じる必要があったこと、同社が今年5月に問題を把握してから今年7月に自主回収に踏み切るまで2カ月を要したこと、カネボウの担当者は化粧品とは関係ない病気だと思い込み、適切な対応をとらなかったことなどを指摘・批判した。調査を担当した弁護士が記者会見で「商品ありきで、消費者は後回しだった」と指摘した通り、鈍感かつとんでもない怠慢である。報告書はカネボウによる意図的な隠蔽は否定したものの、「都合が悪いことは無視しようとする態度」と同社の体質を批判した。
これは大企業によくある「事なかれ主義」の露呈だが、直接ひとの肌に塗る化粧品という微妙な品物を扱っているという自覚に欠けると言わざるを得ない。しかも「美白」のために高価な化粧品を購入しながら被害に遭った人たちの人生を暗転させてしまった責任の重さを、本当にカネボウの社員たちは今、十分自覚しているのだろうか。なぜ会社として持っている問題報告のプロセスにおいて自分の頭で考えなかったのだろうかと、非常に残念だ。
小生は以前にこの件についてブログに書いたことがある。
http://pathfinderscojp.blog.fc2.com/blog-entry-258.html
そこでも、同社が美白化粧品のシリーズを2種類、3種類と重ね塗りさせるよう顧客に薦める戦略を執っており、それが被害を深刻化させた可能性をNHKの報道班が指摘していることを述べた。それなのに同社は2種類の重ね塗りの副作用リスクの検証しかせず、3種類以上重ね塗りした場合の副作用については「我関せず」のままだったのである。第三者調査報告書にはその言及はないようだが、同社の無責任体質をまざまざと表している。
もう一つ、先のブログを書いた際には判明していなかった事実が分かった。医薬部外品として厚生省から承認を受けるプロセスに関わる疑惑である。白斑の原因とみられる美白成分「ロドデノール」の原料物質「ラズベリーケトン」による同様の被害が約20年前に確認され、厚生労働省の審議会でも平成19年に議題に上っていた。それに先立つ10年、山口大の福田吉治教授(地域医療学)が論文で、国内の化学薬品メーカーでラズベリーケトンの製造作業をしていた男性従業員3人に4年ごろ白斑の症例があったこと、うち2人の症状は2年たっても完全には回復しなかったことを報告している。
ここがミソなのだが、カネボウの担当者は、自社開発した新成分ロドデノールを19年に厚生労働省に承認申請する際にこの論文内容も引用しているが、論文自体は添付していない。ロドデノールは同省の薬事・食品衛生審議会の部会での議論を経て、20年に承認されている。つまりカネボウは、論文を添付したら「この成分はヤバイんじゃないか」と指摘されるので、都合のいい部分だけを引用して、「白斑の症例はあったが問題なく収まった」という印象を与えるのに成功したのである。審議会のメンバーが引用された論文に当たってみてチェックすることなどあり得ない、と見切っていたのである。
薬事・食品衛生審議会としては何とも舐められたものであるが、事実カネボウ担当者の思惑通りになったわけである。このあたりの審議プロセスは現在、取材が進むにつれて、そのいい加減さが露呈しつつある。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013091202000133.html
「審議プロセスが甘かったのではないか」と追求されている審議会は「問題となったラズベリーケトンと審議対象のロドデノールは構造が違うので別の成分である。審議は問題なかった」と開き直っているそうである。嗚呼、「付ける薬がない」とはこのことか。