エアアジア・ジャパン不振の原因は結局何だったのか

BPM

日本で本格的なLCC(格安航空会社)3社が就航して1年が過ぎ、その明暗がはっきり出ている。エアアジア・ジャパンの苦戦の理由として関係者やアナリストが指摘するものは、いずれも十分納得できるものではない。

LCC3社のうち、全日空子会社で関西空港を拠点とするピーチ・アビエーションが最も好調で、就航から6月までの平均搭乗率は78%と国内トップを達成した。尤も、この搭乗率でもまだ赤字であることから、LCCが搭乗率8割程度を要するシビアなビジネスモデルであることが分かる。同社は2014年3月期に(当初計画よりは前倒しで)営業黒字達成を視野に入れている。

ジェットスター・ジャパンも健闘している。先日の発表では、就航1年余りで総搭乗者数が200万人を超えた。同社は昨年7月に成田-札幌、成田-福岡線を開設。中部や関西へも路線を拡大し、現在13路線で1日70便が運航中だ。1年間の平均搭乗率は72%になる。

それに対しエアアジア(マレーシア)と全日空の合弁だったエアアジア・ジャパンは、昨8月の運行開始後、成田をベースに新千歳、福岡、那覇を結ぶ3路線に、中部空港をベースとする2路線などを加えた。しかし報道によると、2012年度の搭乗率は国内線では63.9%、国際線では61.9%と苦戦中である。

このせいで同社は最近合弁を解消し、全日空の100%子会社になった。この11月からは社名を「バニラ・エア」に変更する。新会社は当面は成田発着に集約し(中部空港からは撤退)、国際リゾート路線に特化する戦略を採るそうだ。

この件については小生も興味があったため、これまで時折論じてきた。
http://pathfinderscojp.blog.fc2.com/blog-entry-247.html
http://pathfinderscojp.blog.fc2.com/blog-entry-236.html

不可思議なのは関係者が語るエアアジア・ジャパンの苦戦の真の理由である。全日空出身者は、エアアジアが拘ったインターネット予約だけという方式ではダメだと主張している。それで彼らは旅行代理店経由でチケットを売ろうと考えたのだが、エアアジア本社ではそれでは低コスト追求はできないと猛反対し、この路線対立が後々まで尾を引いたようだ。この点に関しては、エアアジア側の言い分に理があるように思える。

ちなみにピーチもジェットスターも、インターネット予約だけでなく、コールセンターでの予約もできる。この点がエアアジア・ジャパンと他2社との第一の違いであり、本来なら同社の経営陣が真っ先に議論し対処すべき点だったのではないか。

しかしLCCを利用する人たちの大半はインターネット予約に抵抗を示すとも思えず、実際、ピーチもジェットスターもインターネット予約が割安で、主たる手段である。そしてエアアジア・ジャパンのインターネット予約方法が他の2社に比べ難しいかというと、ウェブサイト上で見る限りそんなことはない。

現実問題として、エアアジア・ジャパンの予約システムはエアアジアのものを踏襲しており、プロセス面でもシステム的にも練れているはずからである。アジアの人々に簡単に使えるのに日本人には使いこなせないということはなかろう(日本語表記の問題は残るが)。

アクセスが集中した際にエラーが頻発する問題が足を引っ張った可能性はありそうだが、実は同様の問題は同じ初年度のピーチにもジェットスター・ジャパンにも結構起こっているらしい(ネット上にそうしたコメントがかなりある)が、両者は搭乗率で健闘しているのである。つまりシステム処理能力がエアアジア・ジャパンの不振の主因になった可能性も低い。

多くのアナリストたちが指摘するのが、成田空港を拠点にしていることによる低コスト追求の難しさである。24時間体制でない成田空港は発着時間帯が限られ、遅延が積み重なれば便のキャンセルを生じかねないため、所有機をフル稼働させたいLCCとしては使い勝手が悪い。それなのに世界有数の高額な空港使用料を請求される、LCCにとって実に儲けにくい空港なのである。これは24時間稼働の関西空港をベースにするピーチが一番好調である理由にはなるが、同じ成田を拠点にして好成績を上げているジェットスター・ジャパンを前に、この言い分は通用しないだろう。

アナリストたちが挙げていたもう一つの要因は「エアアジア」ブランドが(東南アジアでは有名とはいえ)日本では浸透していなかったのではないかという点だ。これはジェットスター・ジャパン就航前からジェットスター本体が日本に就航していたのに比べ不利な点といえようが、ピーチが全くゼロから始めて結果を出しているのだからやはり言い訳に過ぎない。実際、「バニラ・エア」にブランド変更することで、もう一度ゼロからのスタートをする覚悟を決めた同社にとっては、その要因は小さいと割り切ったはずだ。

それ以外に関係者が理由として挙げているのは、エアアジアCEOのトニー・フェルナンデス氏が指摘している「ANAのような伝統的な航空会社出身の人間がLCCの幹部にいることでの動きの悪さ」と、社内の人が指摘する「合弁企業ならではの意思決定のもたつき」である。

伝統型の航空会社の経営とLCC経営が全く異なることも頷けるし、合弁会社の経営が難しいことは一般的にも認識されている(実は小生もその体験者である)。しかし好調のピーチ・アビエーションがANAと投資会社の合弁子会社で、ANA出身者が経営陣を占めること、ジェットスター・ジャパンもJALと三菱商事そしてカンタス航空の合弁である事実を考えれば、エアアジア・ジャパン不振の主因として単純には頷けない。

結局、エアアジア・ジャパンが「ダッチロール」したまま経営を立て直すことができなかった主因は環境的な条件や形式の問題ではなく、親会社間での主導権争いが生じ、互いに不信感を深め、経営の方向性で一致団結できないために効果的な手を打てなかったという「内部事情」に尽きるのではないか。その意味で、早めに「成田離婚」し、100%子会社として再出発することは間違いではないのかも知れない。