日本企業に求められる「内向き同質組織」からの脱皮

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全日本柔道連盟の不祥事の真因は内向きで同質の組織体質である。それは多くの日本企業の課題でもある。

指導者の暴力問題、助成金の不正受給など一連の不祥事で、全日本柔道連盟の会長辞任問題が取り沙汰されている。ガバナンス欠如などの指摘はその通りであろうが、その「懲りない」対応の底流にあるのは、同連盟が内向きの論理と「体育会系」体質一辺倒に染まっているからではないかと思わざるを得ない。身内同士でかばい合う意識が強く、思い切った自己革新をできないのである。日本相撲協会でも以前、同様の不祥事や指摘が相次いだことを思い出す人も多いのではないか。

しかしこうした問題点やその主要因をよくよく考えてみると、過去に表面化した有名問題企業(オリンパス、雪印、大王製紙など)での不祥事とその際に問題視された組織体質とよく似ていることに気づく。いわく、「おかしいと分かっていても指摘できない」「疑問を差し挟めない」という「場の空気」が不正の積み重ねを助長し、問題の深刻化に鈍感になっていったという。

実は我々が出入りする日本企業でも似たような雰囲気を感じることは少なくない。さすがに我々コンサルタントの面前で露骨に表面化することは滅多にないが、そうした状況を間接的に耳にするケースはよくある。つまり先に挙げた問題企業は極端であるかも知れないが、例外ではないのである。

以前どこかでバンダイ取締役の松永真理氏やベルリッツ名誉会長の内永ゆか子氏が指摘していたと記憶しているが、「優秀な女性を活かせない日本企業が多いのは、異質を排除したほうが幹部にとってコミュニケーションが楽で効率がよく、居心地がいいからだ」というようなことだった。これは真理をついていると思う。そして問題の本質は、そうした同質で固めた組織では「イケイケドンドン」の時には強い反面、現状に疑義を挟まないゆえに改革が遅れ、独創的なアイディアも出にくいことである。つまりイノベーションには向かない組織体質なのである。

小生は業務改革や組織改革の際によく、変革への「5つの壁」という話をする。元々小生のいたアーサー・D・リトルという戦略コンサルティング会社で開発した組織変革手法の一つなのだが、最初の壁は「認識の壁」である。そもそも問題があると思っていない段階では、人は変革・改革などという面倒くさそうな話には乗ってこない。「解決しよう」と持ち掛けても真剣に検討する気にならず、表面だけ付き合うふりをしながら適当にお茶を濁すといった行動を見せる。「内向き同質組織」ではとりわけ「認識の壁」が分厚く、そこを突破するのに多大なエネルギーを要する。

同質体質からの脱皮は、グローバル人材獲得競争に勝つためにも必須だ。同質体質の企業では文化背景の異なる現地の人たちを幹部に昇進させるルートが細くなりがちだ。既に進出した企業の先例のせいで、「日本企業では優秀な人間でも日本人男性でない限り昇進が難しい」という悪評が定着してしまっているケースも多い。創薬ベンチャー・アキュセラのCEOである窪田良氏が米国で起業した理由を問われて、日本より米国のほうが研究者の多様性に富んでいたから、と答えていた。そして「日本が真にイノベーティブな社会を目指すのであれば、人材の多様性を進め、異質なモノを許容する社会を作ることです」と強調していたのが印象に残る。

小生は日本人がイノベーティブでないとは全く思わない。しかし組織となると、多くの日本企業がその同質性ゆえにイノベーティブになりにくいことは認めざるを得ない。「チームワークのよさ」という強みを失わずに、異質な「個」を今後いかに育てて強めていくのか。まるでサッカーの日本代表チームみたいな話だが、柔道連の問題も多くの日本企業にとっては他山の石とすべきなのである。