限界に来た家電量販店のビジネスモデル

ビジネスモデル

大手家電メーカーの製品開発力と高率リベートに依存して伸びてきた家電量販店は、そのビジネスモデルの限界が見えつつあり、その革新のための試行錯誤もまた注目される。

最近の家電量販店に関するニュースは冴えないものが多い。大手4社(ヤマダ電機、ビックカメラ、エディオン、ケーズHD)の直近の連結業績は軒並み大幅減益で、業界3位のエディオンは初の営業赤字、2位のビックカメラはコジマ買収前の経常利益水準にすら届かなかった。1位のヤマダ電機は全取締役降格という異例の人事が話題になった。

家電量販店は、パソコンや薄型テレビといった具合に、電機メーカーが次々に生み出す新製品で伸びてきた。ところが地デジ放送への切替時に先食いした「薄型テレビ需要」を継ぐ大型商品が途切れてしまっており、それが今の不振の主因だという説が有力らしい。

確かに、スマホやタブレット端末といった情報家電の新製品はその後も続々と登場したが、前者はケータイショップで買うのが主流だし、後者はノートPC需要を食いこそすれ、家電量販店で爆発的需要を生んでいるとは聞かない。次世代薄型テレビといわれた3Dテレビは観るべきコンテンツが供給されないまま、最近は話題にもならない(我が家でも3Dメガネは仕舞われたままだ…)。

そもそも日系大手家電メーカーが赤字に苦しみリストラ中なのだから、昔のようにどんどん新商品が開発される状況でもない(アイリスオーヤマは別だが)。家電量販店の大量仕入・大量販売という収益モデルの前提であるメーカーの販売リベート総額が縮小しつつある中、バイイング・パワーを少しでも維持したいがために業界再編劇を繰り返すという構造に陥っている。

何より問題なのは、品定めのために来店するが、実際の購入はネット通販で行う消費者の割合が急増していることだ。俗に云う「ショウルーム化」現象である。商品説明だけさせられる販売員はたまったものではないが、客が本当に買う気があるのかを見分ける手段は店側にはない。大型商品の不在より、こちらのほうが深刻な問題だろう。

あれやこれや考えると、家電量販店のビジネスモデル自体が限界に近づきつつあると言ってよかろう。それを象徴する動きが、旧三越新宿店跡の店舗をユニクロとコラボして「ビックロ」にした、ビックカメラの試みだったかも知れない。太陽光発電設備の販売やネットサービス契約窓口など新しい商材を扱うことにも各社は取り組んでいるが、従来の「商品仕入販売」または口利きビジネスの域を出ていない。今はいずれの社も試行錯誤の最中なのだろう。

一昨年から昨年にかけて、もう一つ重要な動きがあった。それがヤマダ電機による、中堅住宅メーカーのエス・バイ・エルと住設機器メーカーのハウステックHD(旧日立化成工業の住宅設備機器部門)という2つの住宅関連メーカーの買収である。つまり業界トップ企業が有力新規事業として住宅関連領域に注力することを目指したのである。実際、その後多くのヤマダ電機店舗にエス・バイ・エルの住宅販売コーナーが設けられており、「家電量販店でスマートハウスが買える」と話題にもなった(CMも流された)。

ただし家電量販店で家を買う消費者が急増するとも考えにくく、経営インパクトとしては大きくはないだろう。それより家電量販店のビジネスモデルを変革するほうが重要だ。そしてネット通販に効果的に対抗するには実店舗でしか体感できない仕掛けとサービスを組み上げるしかないが、その策は幾つかありそうだ。

多分近いうちに、(エス・バイ・エルの住宅だけでなく)ハウステック製を中心としたシステムキッチンやバスルームが、ヤマダ電機店舗内に設けられた住宅関連フロアで大々的に売られるのだろう。太陽光発電や省エネ設備といった光熱絡みだけでなく、水廻りと絡めて住宅リフォーム需要を取り込もうというのは、取り掛かりとしては十分現実的である。何といってもバスタブの広さ・深さやシステムキッチンの使い勝手は、現時点のネット通販では体感できないものである。

少なくとも、傷ついた家電メーカーの商品開発力と販売リベートだけに頼る「待ち」の姿勢より、こうした新しいビジネスモデルを試してみる「攻め」の姿勢のほうが頼もしいのは間違いない。