世界を変えた“下請け”ビジネスモデルのインパクト

ビジネスモデル

アニメ×ドキュメンタリーという手法による番組「島耕作のアジア立志伝」の第2話は、“下請け”が世界を変えた~モリス・チャン」と題して、TSMC(台湾セミコンダクター製造社)の創業者をフィーチャーした。

TSMCは26年前、半導体チップの製造を代行する受託製造業(EMS)を世界に先駆けて始めた。今や世界600社と取引があり、シェア5割の圧倒的世界トップ企業にまで成長した。EMSは産業界を激変させた「ビジネスモデル革命」であり、その震源地がTSMCなのである。

日本メーカーが得意としてきた「垂直統合型」のビジネスモデルは、半導体産業の立上げ時には有効だった。今でも少量多品種の対応には優れているが、規模の経済が決め手となる段階での勝負では不利だ。モリス・チャン会長が番組の中で断言していたように、他社が1万個作るところをTSMCは1万1千個作る。それで競合より製造コストが下がり、「コスト削減できた」と考える。実にシンプルだ。

TSMCの本拠は台北の郊外、新竹サイエンス・パークにある(台湾のシリコンバレーと呼ばれる)。従業員37,000人中、17,000人が修士号か博士号を持つ。工場で特徴的なのは広大なオペレーション・ルーム。コントロール・チームは100人体制、交代しながら24時間リモート監視を行っている。工場の操業は完全自動で、欠陥のある半導体を早期発見することで歩留まり悪化を抑え、採算が飛躍的に向上するのである。

小生も別会社のものを見たことがあるが、TSMCの工場は完全無人かつ規模が桁違いで、半導体製造の最先端にあることがよく分かる。同社の強みは巨大な資本力。現在は新工場建設中で、建設費は1兆円、最新最大の機器は1台10億円。2012年の投資額は8,300億円。この投資規模に対抗できるのはサムソン、LG電子くらいではないか。

アップル社や、携帯・スマホ用CPUで世界一のクアルコム社はファブレス(自ら製造工場を持たない設計専門)企業であり、TSMCのようなEMSと対になる存在といえよう。TSMCとはオンラインでつながっており、TSMCの製造ラインと緊密な連絡をとっている。ちょうどTSMCのコントロール・チームのように、顧客が状況をモニタリングできるのである。製造棟は発注者別に分けてあり、担当者も発注者別。セキュリテイに万全を期し、技術の漏洩はない。クアルコムやアップルがTSMCに最新製品の製造を任せることができるのは、TSMCが秘密保持に関し絶大な信頼性を維持しているからであることが顧客の口からも語られた。

チャン氏は中国生まれ、香港育ち。1949年に18才で渡米、ハーバード大学入学。卒業後はテキサス・インストルメントに入社し、IBMの下請け仕事ばかりだったが半導体事業の知識・経験を蓄える。1985年、一念発起して独立。1987年にはTSMCを立ち上げ、EMSを始めるが、数年間収益は上がらなかったという。

製造だけの請負業は当初理解されず、成功しないと言われたが、やがてじりじりと市場で受け容れられ、今や産業の覇者である。一方、「垂直統合型」に拘った日本の電機・半導体メーカーは赤字に苦しむ。EMSというビジネスモデルの競争力とインパクトを物語る対照である。