症例の目につく現象だけに引きずられず、事実との突き合わせで矛盾ない原因を突き止め、衆知を集めて正しい診断を下すべく、分析と議論をリードする。それが総合診療医に求められるファシリテーションの技能であり、総合型のベテラン経営コンサルタントの技でもある。
NHKに「総合診療医 ドクターG」という、小生お気に入りの番組がある。毎回、総合診療医のベテランが1人、研修医が3人、芸能人ゲストが2人ほどスタジオに招かれ、ビデオでの症例を観て、原因を推理・究明する。司会の2人(お笑いかな?)が仕切る訳ではなく、それはむしろベテランの総合診療医の役目。彼/彼女は既に原因を知っているが自らは答を言わず、ファシリテーションしながら板書し、研修医とゲストに推理させる。その過程を楽しむ番組である。
このファシリテーションの様子が実にコンサル現場で小生がやっていることに近く、親近感を覚えるのである。当然ながら、番組内では総合診療医だけが本当の答(=真因)を予め知ってファシリテーションしているわけだが、実際の診療現場では関係者と一緒になって真因を究明していくのである。
この番組では、症例に関するビデオは基本的に2回ある。発症状況と直接の症状を説明するのが1回目、その前後の原因となった行動やその直後の様子などを見せるのが2回目。
最初のビデオで直接の症状を見せられた研修医たちは、症状が当てはまる可能性の高い病名を答える(コンサル現場でも初期仮説を幾つか挙げる)。研修医の多くはこの時点では表面的な捉え方しかできず、幾つかの症状は当てはまるが、幾つかの矛盾点を軽視している(経験の少ないコンサルだと、思い込みでとんでもない診断をするものだ)。その初期診断の矛盾点や研修医が見逃した重要なポイントをゲストが指摘することも多い(クライアントメンバーが、意外と正しい気づきをすることがある)。
次のビデオでは、最初のビデオで開示されなかった情報(例えば他の症状や、ちょっと前の行動など)が映され、具体的な症状に関する情報が増え、そこから矛盾する病因が排除され、可能性の高い病因が絞り込まれる。最初のビデオ直後には自信のなかった研修医たちも、この2回目のビデオ直後の診断ではかなり自信ありげに答える。しかしベテラン総合診療医が幾つか矛盾を指摘すると、途端にミスに気づき、小声で「…違うかも知れませんね」と答える(この事実に対する素直さを将来も維持して欲しいものだ)。
この過程が、実際のコンサルのプロジェクトで仮説が検証されていくプロセスに実によく似ている。インタビューやその他の調査を続けているうちに出てくる新しい事実発見に伴い、思い込みが次々と覆されて、仮説自体がどんどん差し替えられて修正されていく、エキサイティングだが目まぐるしい工程である。
やがて当初の思い込みとは全く違った主要因と因果関係に思い至り、最後には意外な病名が告げられる。事実との一致・矛盾を適切に指摘しながら参加者の思い込みを解きほぐし、気づきを促し、その結論への収束過程を導くのが、総合診療医のベテランによるファシリテーションである。これはまさにコンサル現場において、小生らベテランに求められるファシリテータの姿であり、その期待に応えたいと思っている。