「発送電分離」は「ニッポン復活」につながるか

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「発送電分離」が閣議決定された。しかも「機能分離」でなく「法的分離型」が方針として明示された(1.会計上の分離 2.機能分離 3.法的分離=別会社 4.所有の分離=資本関係のない独立の組織設立という4つのうち、実現可能かつ妥当なオプションである)。色々批判は多いようだが、この事態を5年前に予想できた人が何人いたろうか。それほど大きな前進である。

今後の時系列イベントは次の通り。まず、各地域の電力会社の垣根を越えて電力を融通する「広域系統運用機関」を15年に設立することを、今国会の法改正に盛り込む。続く14年の改正では、現在は大手電力会社が地域独占している家庭向けの電力販売を16年から自由化し、新規参入を認める。さらに改革の仕上げとなる15年の改正では、発送電分離の実施と料金規制完全撤廃を打ち出す、という段取りである。

電力業界での競争を進めるには(誰もが公平に送電網を使える)「発送電分離」が不可欠である。しかし当然ながら、既得権を失う電力会社はロビー活動により阻止を目論み、その意向を受けた一部の自民党議員は抵抗姿勢を崩さなかった(何といっても、「既得権の権化」電力会社の政治力は間違いなく日本一であり、多くの政治家が彼らの不興を買って落選の憂き目を見た経緯がある)。

電力会社の政治力の源泉は圧倒的な資金力にあり、それはガチガチに守られた規制による「実質ゼロ競争」状態がもたらす高収益の構造から来るものである。それが多くの有力政治家を飼い慣らす資金でもあり、「電力総連」(とその家族、取引先を含む)の投票総数の多さは、「選挙に落ちたいのか」と与野党の代議士を脅すに十分である。この構図は数十年間固定化され、強化されてきたのである。

確かに懸念はある。何といっても「既得権者の味方」、自民党政権である。実際、政府が自民党に提示した「15年の国会に提出する」とした改革案も、「提出を目指す」と努力目標に後退させられている。いつ「この話は無かったことにしよう」と先祖帰りするのか、ある意味スリリングといってもよい。発送電分離に向けた改正法案提出は2年後になるため、その間に「骨抜き」が進む恐れもあると多くのマスメディアでは懸念が表明されている(マスメディアでこうした懸念が公に表明されること自体が大きな変化である。電力会社が絶対的な広告スポンサーでなくなったからだろう)。

ただ、政治家の行動をウォッチしその情報をSNSで一般市民と共有する市民団体が急膨張している、という情勢変化は確実にある。おかしな動きをした政治家が糾弾される方向に、世の中は動きつつある。そう簡単に電力業界の族議員が横やりを押し通せるわけではないと期待したい。

では、なぜ電力改革がそんなに重要なのか。日本の生活・製造・サービスといった全般に割高なコストの元凶の一つが、割高なエネルギーのコストだからである(他の有力な元凶は、既得権を保護するための様々な経済規制、そしてITなどの有力な効率化に率先して取り組まない官民の保守的態度だろう)。それほどエネルギー・コストというのは全ての社会・経済活動の主要な原価なのである。

言い換えれば、通信業界や鉄道業界と同様に、電力業界の構造が根本的に変革されることで、「発送電分離」→電力業界での競争促進→エネルギー・コストの大幅な低減、といった方向に進めば、ニッポンの大きな弱点である高コスト体質が改善に向かい、ニッポン復活のシナリオが見えてくるのである。もし安倍政権がこのテーマを正しい方向に導けるのであれば、その時初めて小生もこの政権に対する評価をポジテイブに改めたい。