3月16日放送のドキュメンタリーWAVE「電動三輪車で飛躍せよ ~フィリピン 新市場をめぐる攻防~」は、フィリピン政府が取り組む一大プロジェクト、庶民の足トライシクル(三輪タクシー)のEV(電気自動車)化を取り上げ、そこに挑む日台中比のベンチャー企業の動きを追っていた。
背景にあるのは、フィリピンの危機感だ。IMFによると、2012年のフィリピンの推定人口は約9700万人。17年には約1億700万人まで増える見込みだという。出生率が比較的高く、若い労働力が豊富に確保できる「人口ボーナス」を享受するフェーズに入っている。だが2015年の市場統合を機に、域内での競争環境は飛躍的に高まる。
最も裾野の広い自動車産業はタイに、収益性の高い金融業はシンガポールに、石化など素材・プロセス系はシンガポール・マレーシア・インドネシアに、繊維・軽工業系はベトナム・カンボジア・バングラデシュ・ミャンマーあたりに押さえられよう。中途半端に工業化されて賃金が安くないフィリピンに比較優位があるのは、英語を使うコールセンターや(事務処理など顧客企業の業務を請け負う)ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)くらいだ。それだけでは雇用を維持できない。大量の雇用を創出する輸出型の製造業を、喉から手が出るほど欲しいのである。それがEVである。自動三輪から始め、いずれは自動四輪までという思惑である。
アジア開発銀行はフィリピン政府などと共同で、5億ドルを拠出。昨年、比政府がEVトライシクル参入業者の入札を実施した(入札結果は未公表)。落札した企業連合が2013年に1万台程度を生産し、16年までに10万台を普及させることが目標だ。この入札には日本からも2社のベンチャー企業が参加した。
その1社、電動バイクのテラモーターズは直前に第3者割当増資を行って資金を確保した上で、他の入札参加者と組んで展開しようと、めまぐるしい動きを見せていた。特に台湾の電池モーターメーカーとの提携に興味津々であったが、その台湾メーカーはうまくいけば全メーカーへのサプライヤーになろうと虎視眈眈という感じであった。
大手の自動車メーカーによる世界市場占拠競争が報じられて久しいが、アジア新興国から始まったハイテクとローテクの合いの子が世界市場席巻の先駆けとなったら、とても愉快である。