3月7日の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)で放映された「製薬会社がつくる化粧品で快進撃」は、創業以来100年以上経つ老舗企業のしなやかな変革を伝えてくれ、非常に興味深かった。
ロート目薬、胃腸薬のパンシロン、それに買収したメンソレータムの3本柱で安定した業績を上げてきた同社は、創業家4代目の山田邦雄社長の代になったここ10年で、600億円から1200億円にまで年商を倍増させている。直接の原動力の第一は、『肌研 (ハダラポ) 』により化粧品市場に参入したこと。しかしそうした新規事業に果敢に挑戦し成功した背景には、山田邦雄社長の数々の社内改革と山田氏の個性が効いていると思えた。
その極意は「フラットな組織づくり」。①役員室の撤廃、②中間管理職の1割削減、③ロートネーム(あだ名)で呼び合う、④上司も部下も同じ机とイスで仕事をする、⑤女子社員の制服も撤廃、等々。多くの会社で実施しながら大した効果もないまま、社長が変わると中止になった施策だ。しかしロートではずっと継続され定着しているという。
同社では創業家出身社長が長年トップを務めるため、社内権力抗争が起きにくいのは間違いない。その絶対的トップが「風通しをよくしたい」と上記の施策を率先垂範する。誰も反対できないままやっているうちに定着し、本当に組織の風通しがよくなる。それにこの山田社長の個性がとても素敵だ。全くワンマン風でも権威主義でもなく、いつもニコニコと社員に声を掛ける気さくなオトーさんという、ごく自然体である。「やってみなはれ」的感覚で、新しいことに挑戦する動きを社長が後押しし、周りが「やっていいんだ」と自らも動くようになる。こうした好循環が起きたのがこの10年なのだろう。その結果が、売上に占めるスキンケア商品の比率が6割にまで伸びた業績に表れている。
化粧品分野に参入したのは、中途採用1年目の女性社員の提案だという。業界で当たり前の「肌を美しく」という発想でなく、「肌を健康にする」化粧品というコンセプトを聞き、『やってみたら・・・』と山田社長が後押ししてくれたという。これも平社員と社長が同じフロアで机を並べている効能だろうし、創業以来の伝統である「他人(ひと)と同じことをやるのは恥」という、社風のよい部分が生きていたからだろう。
実はこの会社、10数年前に知人がコンサルに入ったことがあり、「とても人のよい、おっとりとした会社だ」という評価を聞いたことがある。それからすれば、今の同社は全く別の会社のようだ。経営トップのリーダーシップ次第で組織は変われるものだ、と感慨深い。