あるプロジェクトの関係で知人から教えてもらったのが、スパコンの産業利用の話。様々な産業のR&Dプロセスが様変わりするかも知れない。
特に注目を浴びているのが、理化学研究所が所有する富士通製スパコン「京」。既に昨年の9月から利用が始まっている。稼働時間の50%ほどは国が指定する5つの戦略分野(バイオ、新物質・エネルギー、地球変動予測、次世代ものづくり、物質と宇宙の起源と構造)に使われているのだが、30%程度は一般企業に開放されており、申請し認められれば利用できるのだ。
http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201201/3.html
http://www.aics.riken.jp/jp/use/sangyouriyou.html
「京」ではないが、それに準ずるスパコンの産業利用オプションもある。産学連携研究や実践的な企業技術者の育成を推進することを目的に、計算科学振興財団(FOCUS)では国の補助金によって整備した産業界専用のスパコンFOCUSを、民間企業に有料で活用させている。この趣旨に対し設置場所の神戸市が支援し、企業に広く紹介しているそうだ。
http://www.j-focus.or.jp/focus/
実はこうしたスパコンの産業利用には先駆者がいる。それがNEC製スパコン「SX-9」を運用する東北大学サイバーサイエンスセンターである。7%が民間企業などとの産学連携であるとのことで、既に水力発電機のタービンの設計や垂直磁気記録装置、地雷探知地下レーダーの開発といった「ものづくり」の分野で成果が生まれているそうだ。
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1110/28/news008.html
スパコンの産業利用により、特に期待されているのがシミュレーション。これまで数年かかっていた作業を僅か1日でこなすことができるので、これまで実験の繰り返しで成り立っていた研究や開発のプロセスが、コンピューター上の精緻なシミュレーションに置き換わる可能性が高いからだ。例えば自動車産業では、実験で把握できなかった走行時の複雑な空気の流れをコンピューター上で再現。試作をせずに空気抵抗や車の乗り心地を確認しあれこれとデザインを試行錯誤できるようになる。
この産業的意味がピンとくる人は限られるだろう。確実に各種製品の開発期間が短縮される。そしてメーカーによっては、素早い「手戻り」が可能になるため、デザイン工程からの一貫VR設計が本当に可能になるかも知れない。以前、ある自動車メーカーでのデザインプロセスの改革をお手伝いしたことがあるが、その際には越えられなかったボトルネックも解消されるかも知れない。
この産業利用とその課題についてはNHKの「クローズアップ現代」でも「超高速計算が起こす“新・産業革命”」と題して取り上げており、世間の注目も高まっているのだと感じる。http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3290.html
番組ではスパコンを利用する人材・ノウハウが限られていることが課題だと指摘していた。確かにそうだ。