安部新政権が提示した新予算案。「デフレ脱却、経済再生」の目標にフォーカスしていることが明確な、日本にしては珍しい戦略的な性格をもつ予算案に、大筋では見える。市場の期待が高まり、円安・株高の「安倍効果」が生まれている。景気は「気」からなので、このこと自体は評価したい。
来日中のムーディーズ社チーフエコノミスト、マーク・ザンディ氏が「アベノミクス」の「3本の矢」に関するコメントを出しているのを目にしたが、なかなか的確だと感じた。
1本目の「大胆な金融緩和」については手放しの褒めようだ。投資銀行など外資系金融人は、以前から日銀の保守的に過ぎる姿勢に批判的だった。将来のインフレ懸念を気にし過ぎてデフレを放置しているのは無策に等しい、中途半端な金融緩和策が円高を放置しているのに何故気づかない、インフレターゲットを導入せよ、と散々だった。デフレ心理を断ち切り円高を終わらせるためには、インフレ期待を煽るのが打ち手だという点で小生も賛成したい。
ザンディ氏はしかし、2本目の「公共事業を中心とする思い切った財政政策」については批判的だ。要はカンフル剤に過ぎず、これに過大な期待を掛けるのは危険だということだ。全くその通り。特に、東日本震災復興事業で土木資材・人員・施設に対する需給がひっ迫している状態では、公共事業への追加投資の多くは値段を釣り上げる方向に吸収されてしまい、乗数効果は大きくない。ましてや自民党の担ぐ「国土強靭化」事業の多くは、費用対効果が小さいために後回しにされてきた「いわくつき」の代物が多い。日本社会の生産性を引き上げる見込みもなく、とにかく当面の景気を引き上げようという魂胆が見え見えなのである。
これでは財政赤字の後世へのつけ回ししか残らないという懸念が強くなる。同じ公共事業でも、社会インフラの再生・メンテナンスに対する投資(都市部での渋滞解消投資も含む)、エネルギー転換のための社会投資等を中心にすれば、民間投資への呼び水や社会の生産性向上につながるので費用対効果も高くなるはずなのに、残念至極である。
ザンディ氏は「3本目の矢」である「成長戦略」に関しては、「公共事業というカンフル剤が効いている間に効果的な成長戦略を実施しないと…」という以外は具体的コメントをしていなかった。そもそも「成長戦略」の中身は具体性・新規性に欠けるというのが実態だろう。
もし「成長戦略」が効果を発揮しない場合、日本経済はどうなるのか。まずは日本国債の暴落がもたらす金利の暴騰で、政府も中小企業も首が回らなくなるというのが最もありそうなシナリオである。この恐ろしい懸念を描いたNHKの番組「日本国債」を年末に観た。
http://www.nhk.or.jp/special/detail/2012/1223/
幸田真音著「日本国債」を読んだのはもう10年近く前になるような気がするが、現下の状況でNHKがこうした番組を放映するのは意味深である。この漠然とした、しかしじりじりと迫りくる危機的状況を避けるためにも、カンフル剤が効いている間に効果的な成長戦略を是非実施して欲しいものだ。