ルネサス再建策の合理性はどこに

ビジネスモデル

大手半導体メーカー、ルネサスエレクトロニクスの再建策として、政府系ファンドの産業革新機構が7割近い出資をして傘下に収めるということが決まった。自動車メーカーや大手電機メーカーなどルネサスの主要顧客も合わせて8%近い株主となる。出資総額は1500億円にもなる。

スポンサー探しに先に手を挙げたのは再生ファンドのKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)である。「外資傘下では技術流出が懸念される」との声が国内(官民両方か)で強まり、産業革新機構を軸とする「日の丸連合」による支援が固まったという経緯があるようだ。

機構には知人も数人いるため声高に批判するのは多少気が退けるが、それでもこの巨大な民間企業の救済策に産業革新機構が出張るのは筋が違うはずだ。

多くの識者やマスメディアはルネサスの寄り合い所帯(元々は日立、三菱電機、NEC)で「緩い」体質を取り上げて、「こんな企業に出資すると国民に損失負担が回ってくる」という観点で批判していることが多い。

確かに世界シェアトップのマイコンでさえ儲からないというのは経営がまともでない証拠である。その意味で、誰が出資者となっても再建策はほぼ同じであろう。厳しいリストラと共に、顧客に対して適正な価格を請求すればよい。それがトップシェア企業にできる再建策の主要項目であることは間違いない。たとえ株主になっても、それで価格交渉が手加減されると期待するほうが間違っている。

むしろ大切なのは、顧客に云われたまま作り、バリエーションを野放図に増やしてきた、今までの緩い経営と「おさらば」することである。もっと製品の標準化を進め、顧客にも標準製品を提案することである。そうした新しい視点を出すためには、日本人だけで株主を固めるよりもガイジンのドライな発想も取り入れたほうがよいという意見も傾聴に値する(ガイジンだから成功するとは思わないが)。

しかし小生が「筋が違う」というのは全く別の観点である。仮にルネサスがベンチャーであって、今後世界を大きくリードする技術を持ちながら、分野的に未成熟なためにリスクが大き過ぎて民間ファンドでは手を出せないという存在であれば、産業革新機構が孵化器の役割を担うのは筋が通っている。同機構は元々そうした役割を担って設立されたのではないか。ハイテク分野とはいえ、かなり確立したビジネスモデルで売上規模も既に8800億円を超えるような企業は、同機構の出資対象では本来ないはずである。KKRに取られるのが嫌だったら、民間の日系再生ファンドを糾合してでも対抗すればよいではないか。

また、マスメディアの批判には、同様の母体の半導体メモリー部門を集約したエルピーダメモリーの再建に日本政策投資銀行が出資したあげく、サムスン電子などとの競争に敗れて破たんした経緯をとらえ、「経緯も似て母体も同じ、だからその二の舞になるのではないか」といった論調も目立つ。しかしこれは誤った見方だ。

エルピーダとルネサスではかなり体質が違う。はっきりいって前者では坂本社長のリーダーシップはしっかりしていたし、戦略もちゃんとあった。しかし主要顧客が世界じゅうに散らばっているメモリー製品の場合、主な競合は極端なウォン安の韓国メーカーであり、理不尽なレベルの円高は致命的かつ同社のコントロール外だったと同情すべきである。それに比べ、ルネサスには明確な戦略も経営リーダーシップもない(戦略のお粗末さについては外部から入ったコンサル会社のミスも大きいようだ)。こちらのほうがずっと危ういのだ。