昨年の年間出生数が72万988人と、9年連続で過去最少を更新したことが公表されました。この少子化問題、長期的視点ではニッポンの最大の課題だと思います。
昨年参加した討論番組「For Japan」でもテーマの一つになっており、その際にも幾つか主張させていただきました(とはいえ、番組の都合でぶつ切りだったので十分には伝わっていないでしょうね)。
ここでは戦略コンサルティングと同様のステップで、この問題を掘り下げて課題構造を整理してみたいと思います。なお、このケースは「目標設定型」ではなく「問題解決型」のアプローチの適用が適切だと思います(この2つの違いについてはご自分でお調べください)。
まずは必要十分な調査を踏まえて分析し、課題の構造を正しく捉えることが何より大切です。往々にして人々は身近な出来事や印象から思いつきの原因を口にして議論を混乱させがちですが、まずはマクロの視点で広く捉えるのが正しい態度でしょう。
このケースに関しては既に、日本創生会議・人口減少問題研究会や国立社会保障・人口問題研究所など様々な専門家集団が調査・研究を重ねており、ほぼ知見は出揃っています。
その説く処の要旨は、「東京一極集中に代表される、地方から大都会への若年層の人口流出が最大の構造要因であり、諸悪の根源。地方では若年層の人口流出により人口再生産ができず過疎化が進んでいる。東京圏では流入した若年層~適齢期の若者が未婚または晩婚の傾向が強く、出生率が大きく低下しているため人口縮小が進んでいる」というものです。
要は、地方では出生数=「適齢期の女性数×出生率」の算式における「適齢期の女性数」が激減していることが原因です(地方の出生率は高いままです)。一方、東京圏では「出生率」がとんでもなく低迷していることが原因なのです(適齢期の女性数はむしろ増えていますね)。
この地方と東京圏の構造問題を切り分けずにごちゃまぜで議論していると、いつまで経ってもまともな解決策に結び付きません。
ここで地方と東京圏でのそれぞれの根本問題の主要な原因を整理しておきましょう。
地方からの若年層の人口流出の主な原因は、①魅力的な働き口がない、②若い女性にとって居心地が悪い(すぐに「仕事を辞めて結婚しろ」と言われるなど)、③若い女性が少ないので若い男性も都会に出たがる、④娯楽が少ない(ただしこれは相対的には劣後しそうです)、といったところが挙げられます。これらは複合的に絡むことも多そうです。
一方で東京圏で若者が未婚または晩婚が進む主な原因は、①経済的余裕がなく結婚に向けての貯蓄が足らない、②(キャリアを追求したい女性の場合)結婚して出産することになるとキャリアが中断するリスクが高い、③刺激的な仕事や人間関係が多いので「結婚して落ち着く」までに時間が掛かる、といったところが挙げられます。かなり人によって違いますよね。
実は政府が懸命にやってきた「少子化対策」の大半(出産費や教育費の無償化など)はどれにも効かず、的外れだということが明白です。
これらの主要な原因をすべて取り除くことは非現実的ですが、可能な限りのまともな対策を打てば、少なくとも少子化のペースを相当緩和させることも可能だし、一部では「反転」の可能性も十分にあるはずです。政策担当者は今一度知恵を絞って欲しいものです。
(コンサルティングの実地だと、続いて課題仮説の検証、その後に解決仮説を構築し検証がてら試行に移るのですが、ここでは「課題仮説の構築」までにしておきます)。