(以下、コラム記事を転載しています) ****************************************************************************
仮説検証の必要性について改めて訴える「求められる仮説検証」シリーズの第1弾。仮説検証について考えるに先立って、戦略策定において「戦略仮説」とはどういうもので、そもそも「課題仮説」と「打ち手仮説」の2種類あることを共有しておきたい。
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弊社では昨年から新規顧客限定の「仮説検証サービス」というものを始めた。いわば「お試し」的なサービスで、クライアント企業が持っている戦略仮説をクライアントに代わって検証して、「1次回答」を差し上げるというものだ。
その顧客候補への説明の過程で痛烈に感じたのは、大企業といえどもきちんと戦略仮説の検証をやっていることは比較的少なく、多くは仮説のまま(つまり自分たちの思い込みのまま)次のステップに進んでいること、そしてそれを大して問題だと思っていない人が(上層部にも)少なくないことだ。
実は小生は随分と前から、このコラム記事で「仮説の検証」の必要性について何度か書いてきた。10年近く前の「検証を欠いた“いきなり実施”は無謀・軽率と呼ばれる」という記事を皮切りに、「仮説の“検証”とはどんなもの?」シリーズの実例その1・その2・その3、さらに「新規事業における素朴な疑問」シリーズでは(8)「軽視される基本仮説の検証」と、(12)「先送りされる検証」を書き、世に警告してきたつもりだ。
しかし最後の記事から6年以上経ち、他の記事に埋もれてしまい、それらが省みられる事は滅多になくなっている。そこで今回、「求められる仮説検証」シリーズという形で仮説検証の必要性について改めて世に訴えたいと考えた次第だ。
そもそも「仮説の検証」とはどういうものか、ピンとこない方も少なくないと思うので簡単に説明しておこう。「仮説」とは、自分たちが『こうじゃないか』と想定している事柄(刑事事件でいえば「容疑」)であり、まだ事実だと立証・確認できていないものだ。そしてその検証とは、『本当にそうなのか』と別の切り口から裏付け確認すること(刑事事件でいえば「裏付け捜査」にあたる)である。
わざわざ「戦略仮説」などと勿体ぶって呼ぶのは、戦略策定または戦略的イシューに関わる仮説だというだけに過ぎない。「非戦略」の仮説なんてものは身の周りに溢れかえっている(例えば「部長が今朝機嫌が悪いのは奥さんと喧嘩したからに違いない」などという邪推も仮説の一種だ)ので、それらと区別したいからだ。
戦略仮説の具体論については次の記事あたりで改めて説明するつもりだが、その前に、戦略仮説には大きく分けて「課題仮説」と「打ち手仮説」(※)の2種類あることをお伝えしたい。
※「解決仮説」ともいうが、課題仮説とは切り離しての概念だということを明確にするため、こう呼んでいる。
前者の「課題仮説」とは「解決したい事態=課題の構造はこうなっている」ということであり(刑事事件でいえば「手口」や「動機」にあたる)、後者の「打ち手仮説」とは「この課題を解決するのに効果的なやり口は××である」というものである(刑事事件でいえば犯人逮捕や次の犯行の阻止のための方策案であろう)。もっと具体的に見ていこう。
新規事業の開発であっても既存事業の戦略的見直しであっても、戦略策定プロセスにおいてはいきなり戦略案が空から降ってくる訳ではない。必ず「課題」の認識があり、それを踏まえて解決策たる「打ち手」を考えるはずだ。
例えば新規事業の開発の場面で考えてみよう。ある市場分野に対し自社の技術を応用することで新しいタイプの商品を開発できそうだと思いつくとしよう。
(結論が目にちらつくのを我慢して)その発想を分割整理してみると、「この市場には〇〇という(自社技術が最も有利に埋められる)ニーズがありそうだ」という課題仮説があり、それに対して「自社の技術を使って△△という機能・性質を持った商品を開発すれば、そのニーズに競合よりうまく応えられるはずだ」という打ち手仮説を思いついている訳だ。
同様に既存事業の戦略的見直しのケースでも考えてみよう。既存事業にて競合との価格の叩き合いで利益が低迷している状況を解決するため、商品提供に絡めてスマホアプリによるサポートサービスを加えることを思いついたとしよう。
これもまた先の例と同様、その発想を分割整理してみると、「価格の叩き合いによる消耗戦は避けたい」「何かしらの付加価値要素を加えることでその状況から抜け出せるかも知れない」という課題仮説があり、そこから「(商品を売るだけでなく)スマホアプリによるサポートサービスを無償で提供すれば、価格競争を脱することができるのではないか」という打ち手仮説を思いついている訳だ。
つまりイシュー→課題(仮説)→打ち手(仮説)という順に、思考が結論に向かって絞り込まれて具体化されていくのだ。これが戦略策定のプロセスの大筋だ。その際、同じように戦略仮説と言いながら、課題仮説と打ち手仮説という別レベルの仮説が登場していることをご理解いただけるのではないだろうか。
さて実はこの課題仮説が曲者で、大半の企業における1次調査の段階では往々にして本当の課題を構造的に正しく捉え切れていないことが多い(刑事事件でいえば捜査の「見立て」の筋が悪いケースだ)。例えば、実際には幾つもの要素が絡まった格好で課題を形成しているのに、その一面だけを捉えてそれがすべてのように勘違いしがちだ。
そしてその浅すぎる課題仮説の認識に基づいて「こうすれば解決するに違いない」という打ち手仮説を構築することになれば、当然ながら筋の悪い解決策(刑事事件でいえば冤罪による逮捕)を生んでしまっている可能性が高いことも想像できよう。このあたりは次の記事でお話ししたい。