事業承継M&Aに潜む陥穽

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日本における企業数の99.7%が中小企業であり、特に地方における中小企業の大きな課題が事業承継(後継ぎの確保)だという話は皆さんお聞き及びの通りです。

それなりに取引関係が続き黒字を計上していながら、経営者が高齢化し、後継者がいないがために会社・店を畳まなければいけないという事態が全国で顕在化しています。

これだけでも地域経済には望ましくないのですが、サプライチェーンの途中にある企業が1つでも抜けると、その前後の他の企業にも大きな影響をもたらし、場合によっては「連鎖廃業」を引き起こして地域経済に強烈なダメージをもたらしかねません。

その有力な解決手段の一つが「事業承継M&A」のマッチングです。経営としては問題ないが事業承継相手がいなくて困っている中小企業と、その事業を買収したいと考える企業を仲介するのです。

地域金融機関が手掛けるケースもありますが、それだと組合せの相手企業が同じ地域の範囲に限定されてしまい、興味を持ってくれる先を見つけることもなかなか難しいのが実情です。

したがって「事業承継M&A」の仲介サービスで今伸びているのは、全国またはかなり広域をカバーする民間企業ばかりです(実は弊社にも買収を呼び掛けてくるところもあれば、「顧客に候補先はいませんか」とアプローチしてくるところもあります)。

こうした「事業承継M&A」のマッチングがうまく機能すると、高齢化した中小企業経営者も身内・社員への事業承継以外の方法で引退でき、家業を継ぎたくない息子・娘も罪悪感なく自分の職業を選べますし、大きな視点では地域中小企業の資本集約により体力強化につながる可能性が高まります。つまり三方良しです。

しかし先日の報道で、とんでもない「事業承継詐欺」ケースが頻発していることが判明しました。

すなわち、後継者のいない企業に買収を持ちかけて、買収成立後に現金や株式などの資産を譲渡させたうえで、事業を放置したり借金をそのまま負わせたりするのです。資産を失った売り手側の企業が廃業に追い込まれるケースも起きています。中小企業庁もM&Aに関するガイドラインを8月に改訂し、注意を呼びかけています

「ガイアの夜明け」でも放映されていたのでご覧になった方も少なくないでしょう。「こんな悪質な輩が大手を振ってビジネスをやっているのか」と私もショックを受けました(いずれこの「ルシアンホールディングス」という投資会社は捜査を受けるとは思いますが)。

でもその番組の中のマッチングを行ったM&A仲介企業が、知人が役員を勤めている会社だと知った時にはさらにびっくりしました。決してその仲介会社が詐欺を行った訳でも、意図的な不法行為を行った訳でもありません。むしろ騙された側です。しかしプロのサービス会社として十分な注意を払わずに、結果として詐欺師を紹介したことに変わりはありません。

多分、このM&A仲介企業は、相当なサービスプロセスの見直しと社員教育の見直しを余儀なくされるでしょうし、それでも信頼回復は遠い道のりとなるでしょう。もしかすると被害者から民事訴訟を起こされるかも知れません。

当該の知人は大手金融機関出身の、本当に誠実な人で、定年後に入った会社がこんな騒動に巻き込まれることになるなんて想像もしていなかったでしょうが、人生どこで何が起きるか分かりません。会社選びも、会社売却の相手先選びも、注意すべき時代です。