ふるさと納税は見直しすべき局面にある

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(以下、コラム記事を転載しています) **************************************************************************** 

ふるさと納税が多くの自治体を地域活性化に本気で取り組ませた効能は大きい。しかし一方で、真の経費率の大きさが5割近いという運営体制や「お得感」だけが追い求められている実態など、制度の歪みは放置すべきでないところまで来ている。**************************************************************************** 

この時期になると、ふるさと納税絡みの番組や特集記事そしてCMが、テレビでもネットでも非常に目に付く。それだけ世の中の関心の高さを示しているのだろう。

実際、この制度は地方の自治体をして地元名産品や当該地ならではの独自イベントの開発のために躍起にさせる原動力になっている。昔なら、中央の役所や偉い政治家に陳情して補助金を獲得することと、東京の大企業に地元に工場などを建ててもらうことぐらいしか地域活性化の有望な手段はなかった。そうした「他人様の力頼り」に比べれば実に健全な地域活性化の努力だ。

特に農水産業しかないような自治体にとっては、地元で採れる農水産物が立派な返礼品に化け、税収アップと地元産業の活性化に直結するのだから、知恵と力の入れ甲斐があるというものだ。

従来なら買い叩かれて利益確保が難しかった産品でも、自分たちで少し加工し適切にブランディングすることで大いに付加価値を生み出せることに気づかせてくれた点だけでも、この制度が役に立ったと評価してよいと思う。

ところで、今年のふるさと納税では多くの返戻金の寄付額が「値上げ」された例が相次いだようで、ネット上では「ここにも物価高の影響が」という、悲鳴とも非難ともつかないコメントが幾つも見られた。

確かに原材料や人件費が高騰したことも追い打ちしているが、実は主な要因は国の規制が厳しくなったことだ。総務省が19年度に打ち出した「返礼品は地場産業に限る。調達費は寄付額の3割以下、宣伝費や送料を含めての経費総額は5割以下とする」というルールが守られていない実態が報道で明らかになったことを受けて、この6月辺りから厳格化された影響なのだ。

総務省が当初報告を求めていたのは募集に要した費用だけだった。しかし、大半の自治体が「おんぶにだっこ」的に仲介サイトに丸投げしている、寄付後の手続き経費やその他のサービス料金まですべて合算すると、5割を超えているケースが横行していたのだ。

この「5割ルール」の厳格化以降も経費率は5割近くに達する自治体が大半だと目される。都市部の住民サービスに使われるはずだった税金の半分ほどが経費として消えてなくなり、その大半は仲介サイトなど東京の大手業者に流れる構図だ(これは飲食店がコロナ過前、大手口コミサイトにいいように牛耳られていた様相を思い起こさせる)。

これが本当に、ふるさと納税が目指していた制度趣旨だったのか。

また、ふるさと納税を利用する側にも問題がある。「この地方を応援したい」という気持ちからというより、単に「よりお得な返礼品」を求めて(「寄付額」のうち2,000円を超える分は翌年の住民税などから控除されるから)通販ショッピングしているに過ぎないケースが圧倒的ではないか。これがふるさと納税制度の趣旨に沿った姿だろうか。絶対違うだろう。

しかも高額納税者ほど恩恵が大きいという点は当初から批判の的だった。それに忘れてはならないのは、これは「ゼロサムゲーム」だということだ。つまりふるさと納税で地方に移転する税金は、元々当該住民が住んでいる都市が住民サービスやインフラ整備等のために充てるはずだったものだ。

いわばこの制度は、都市部の自治体から地方の自治体への富の移転を、政府の代わりに市民自らの選択によって行わせるものなのだ。当然、都市部では財源が不足し、住民が享受すべきサービスはその分削られるのだが、自分のふるさと納税額について嬉々と語る住民にその因果が伝わっているとはとても思えない。

つまり地方の活性化に果たしている貢献度は十分に認知すべきだが、ふるさと納税の制度の歪みは放置すべきでないところまで来ており、見直しの節目にあると小生は考える。では具体的にどうすべきか。

まずは最低限でも、経費率を3割程度以下に圧縮することが必須だろう(地元産業に付加価値が残る「調達費」の割合については今のままでいい)。そのため地域自治体同士で連携して、仲介サイトに全面依存しない体制を築くための効果的な方策を研究すべきだ。

具体的には、共同事務センターを作る、仲介サイト間での競争を煽る、寄付してくれた利用者に直接コンタクトして次から直接寄付してもらうよう働き掛ける(この場合、何かおまけをつけてもいい)、などが考えられる。

また、利用者にも意識変革を促す施策を考えるべきだ。例えばある金額以上(10万円以上など)のふるさと納税利用者には1割以上の金額の「返礼品なし」の寄付を義務付けるのはどうだろう。つまり「本当の寄付」を1割しないと税金控除にならないようにするのだ。しかもこの「返礼品なし」寄付先対象には地元(つまり都市部)自治体も含むとしてはどうだろう(今のふるさと納税は地元自治体に対しては原則として不可)。

事務手続き的には少々面倒になるが、市民の意識変革にはインパクトがあるはずだ。今の「お得な通販ショッピング」感覚一本やりから、本当の寄付はどうあるべきかを考えてくれる人が増えるのではないか。

そして地元にどんなNPOがどんな活動をしているのかを知ることで、ふるさと納税とは別に直接寄付することも考えてくれたり、「手伝ってみようか」という気になったりすることもあるかも知れない。

その結果、自治体に押し付けるばかりではなく、住民ができること・すべきことに市民が気づく可能性が高まることを期待できる。それは回りまわって都市部の自治体のサービス負荷を減らして、住民同士が助け合いによってカバーするという、本来の「自治」の姿に近づくことにもつながるのではないか。