航続距離が長い欧米中でEVが普及している理由

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先日の小生の記事『EV普及には急速充電を戦略的に進めるしかない』を読んだ先輩が次のように尋ねてきました。

「日沖君。日本は他の先進国と比べ、クルマの走行距離が極端に短い。逆に言えば、他国ではもっと長距離運転が一般的。日本でもEVの航続距離の短さがネックになっているのに、海外であればもっと大問題になるはず。それなのになぜあんなにEVが普及するのか?急速充電ステーションがあったとしても、よく分からない。何か知ってたら、また今度教えて」

早速、チャットGPTで次のように尋ねてみました(いやはや便利な世の中になったものです)。

自家用車の航続距離がかなり短い日本でありながら、航続距離の不安と公道における急速充電設備の不備がボトルネックになって、日本市場でのEV普及率は低いままである。その状況を踏まえて質問したい。なぜ日本より圧倒的に自家用車の航続距離が長いとされる北米・中国・欧州で、EV普及率が日本より格段に高いのだろうか?北米・中国・欧州それぞれを分けて論じて欲しい。

それに対するチャットGPTの回答は次の通りです(そのままコピーします)。

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北米、中国、欧州においてEVの普及率が日本よりも高い理由はいくつかあります。

北米では、自家用車の航続距離が長いEVが広く普及しています。これは、北米の広大な土地や長距離ドライブが一般的な文化背景に起因しています。また、北米では充電インフラの整備も進んでおり、高速道路や商業施設に急速充電器が設置されているため、充電にかかる時間を短縮できる利点があります。さらに、政府の補助金や税制優遇措置もEVの普及を後押ししています。

中国では、政府の強力な支援策がEV普及に大きく貢献しています。中国政府は、環境保護やエネルギー安全保障の観点からEV普及を重要な国家戦略と位置づけ、補助金や税制優遇、充電インフラ整備などの支援策を積極的に展開しています。また、中国の自動車メーカーも積極的にEV市場に参入し、幅広い価格帯のモデルを提供しています。さらに、中国の都市部では公共交通機関やタクシーにおいてもEVが積極的に導入されており、EVの普及を加速させています。

欧州では、環境保護への意識の高さや厳しい排出規制がEV普及を後押ししています。欧州連合(EU)は、CO2排出量の削減目標を掲げ、自動車メーカーに対して厳しい規制を課しています。これにより、自動車メーカーはEVの開発と販売を積極的に推進しており、多くの国でEVに関する補助金や減税措置が実施されています。また、欧州では充電インフラの整備も進んでおり、公共充電ステーションや屋外充電ポイントが広く普及しています。

このように、北米、中国、欧州ではEV普及に関する政府の支援策や規制環境、充電インフラの整備などが日本よりも進んでいることが、EVの

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なぜか最後は文章が途中で終わってしまっています(まるで息切れしたかのようです)が、内容的にはいかがですか。小生としてはほぼ予想したポイントをカバーしています。言い換えれば、新たな発見やサプライズはありませんが、悪くない正答率だと言えそうです。

もっとも、ほぼ冒頭の「北米では、自家用車の航続距離が長いEVが広く普及しています。これは、北米の広大な土地や長距離ドライブが一般的な文化背景に起因しています」という2文は、北米での普及の事情を語ってはいますが、理由にはなっていません(ここら辺が「大学2年生レベル」と言われる所以です。厳しいゼミの先生ならこの部分に×を付けるでしょうね)。

正しくは「北米では、少々割高でも航続距離が長い自家用車EVをメーカーが積極的に販売し、環境意識が高くフトコロに余裕のある(しかも世間体も気にする)消費者がそれらのEVを喜んで買っているのです」といったところでしょうか。

いずれにせよ言えるのは、メーカーのコスト低減努力と政府の補助金によりある程度リーズナブルな価格まで下がり、(もちろん魅力的なデザインであることを前提に)上流階級の消費者なら購入できる状況にまでなってきたことです。

その背景には、欧米中ともに政府とメーカーの思惑がEV推進で一致していることが大きく効いています。すなわち、建前上は「ガソリン車よりEV車が環境的に望ましい」ということであり、本音では「エンジン車では日本メーカーにじりじり押されるので、市場条件をEV中心に思い切って切り替えて『仕切り直し』をしたい」というものです。

そして最大のボトルネックになりかねない充電インフラの整備についても、欧州と中国では政府主導で、北米ではメーカー主導で、それぞれ強力に推し進められてきたことです。

こうしたメーカーと政府の推進姿勢を敏感に感じ取った「上流階級市民」が、「これからはEVのほうが、世間的に『意識高い』系として胸を張れる上に、安心(陰に陽にサポートされそう)」と判断してEV購買に急激にシフトし始めている、というのが最も中核にありそうです。

そしてもう二つほど、チャットGPTが(それすなわち世の論考が)見逃している要素があります。

一つは「中古車価格の予想」です。欧米中で高額なEVを買うような消費者は目端も利きます。彼らは政策の方向とガソリン価格動向を読んで、ガソリン車の中古車価格が遠くない将来に大きく値下がりすると予想している模様です。

そのため彼らは環境意識とステータス意識に加え、将来の買い替え時における損失額を抑えるため、今現在の賢明な購買選択肢としてEVを購入しているのです。

では日本の消費者にはそうした意識を持つ人たちは少ないのでしょうか。日本ではEV普及の見通しが立っておらず、こればかりはいくら目端の利く人たちでも先読みできない模様です。EVを先行して買っても、充電設備が普及しないまま終わったらEVの中古車価格は暴落しますからね。

二つ目の要素は「クルマ本来の安定感」です。あまり注目されていませんが、ガソリン車よりEVのほうが走行性能、特にカーブやスラローム走行(左右交互に振る動き)時の安定性能が高いのです。だからスーパーカーを買うような富裕層はもちろん、スポーツカーの愛好者もEVに注目して飛びつきつつあるのです。

その構造的理由は、ガソリン車の一番重い部品であるエンジンが車体前方の中ほどの高さに位置しているのに対し、EV車はそのエンジンがなくて代わりにバッテリーが車体下部に敷き詰められていることに由来します(この違いがもたらす意味は、物理の『慣性の法則』を理解する人なら自明ですね)。

そのためガソリン車だったら横転してしまうようなスピード&カーブ条件でハンドルを切ったとしても、大概のEVなら平気なのです。スラローム走行で言えば、ガソリン車ではローリング(車体の傾き)が酷くて運転しにくいようなスピード&ステアリング角度の条件でも、EVならそれほどローリングしなくて済むのです。

ではなぜ世間的にこの事実が流布していないのでしょう。EVとガソリン車を併売しているメーカーは当然、主力のガソリン車の販売に不利になるので黙っています。

ではなぜEV専門メーカーでさえ大声で宣伝しないのでしょうか。それは彼らも車高の高いSUVを売っており、それが大きな収益源だからです(メーカーだけでなく、その命綱を握るディーラーにとっても)。この「車高の高いクルマほど走行性能が劣る」という事実にあまり消費者の目を向けさせたくないのですね。

でも日本ではスーパーカーやスポーツカーの愛好者がEVにシフトしているといった話はあまり聞きません。その違いを引き出すような(すなわちカースポーツ需要を満足させる)「場」が非常に限定されていることが大きな要因でしょうね。

とにかく、以上に挙げた幾つかの要素がないまぜになって欧米中の上流階級市民をEVシフトに向かわせている(でも日本ではその要素が満たされていない)、というのが今の私の分析です。