先日、Insight Now!に書いたコラム記事『映画界にマーケティングセンスは無くなったのか』に知人からコメントが届きました(この人だけじゃなく、他の知人からも色々と届いています。この記事の趣旨は記事の冒頭にサマリーがありますのです、そちらのご参照を)。
いわく「カネとヒマがあり、人口も多いデモグラフィー属性を優遇して、どっちも無い属性には普通の扱い(冷遇ではない)するのは、寧ろ常道にも思いますが」とのこと。
この部分だけ抜き出せば、一般論としてはまったくその通り。でも論点がずれていますね。こちらが記事で指摘しているのは「若者を優遇するべき」ではなく、「将来のファン層を育成しないとヤバいよ」ということだから。
さらに彼は、「若年人口がピーク時半減しているご時世に、相変わらず「若者」マーケティングを唱える方が、阿呆だと思います。若者が多かった時代の幻影から脱していないというか」と続け、かなり失礼な物言いです(彼は、昔からこういう失礼な物言いで物議を醸していました)。
やはり自分の主張が論点ズレを起こしていることには気づいていないようです。
私もさすがにそのまま放っておくというのは嫌なので、「老人顧客はいずれ順に死ぬので減ります。彼らにだけ依存していてはこの業界は先細り確実です。若者は期待寿命が長いので、どこかの時点で顧客にすることでのLTV期待値はそれなりにあるのです。(静的な見方での)単純なボリューム比較だけではなく、(動的)時系列な観点が必要ですよ」とやんわりと指摘してあげました。
でもこの人、しつこいのです。返信してきました。
「日沖さん、若者もいずれは老いるんですよ。老人顧客は順に亡くなりますが、同様に、順にシニア層に下から繰り上がってくるので、逆ピラミッド人口構成を前提にする限りは、老人重視マーケの方が儲かると思いますよ」と。
論点がずれていることに気づかないまま、「若者向け」<「老人向け」という自分の意見に固執していますね。もう面倒なので、「いいね」を押してあげて、やり取りを打ち切りました(きっと彼はそれで「勝った」と満足感を覚えて安らかに眠ったことでしょう)。
誰も「映画市場については老人向けよりも若者向け市場のほうが儲かる」とか、ましてや「大きい」とかは言っていませんが…。
コラム記事でも、このSNS上のやり取りでも、私が言っていることは同じです。「今の映画界の価格体系は将来のファン作りにつながらない。そこを考えないと業界は先細りするよ」という指摘です。
そこを理解できず、なぜか「若者重視より老人重視のほうが儲かるので正しい」という自分の静的な見方のみに固執していますね。
実はこの人、私のADL時代の後輩であり、コンサルティング業界ではそれなりに成功したはずです(詳しいことは知りませんが、本人のSNSのコメントやそれへの追いコメントから類推すると、です)。それでもこの程度の文章理解力&コミュニケーション力というのは驚きです。
人間、自分の主張に固執すると周りが見えなくなるのでしょう。私もそれなりに年齢や経験を重ねて自分の主張が通るようになった今、他山の石としたいです。
とにかく他の人に理解していただきたいのは、一般に言われる「若者マーケティング」と「将来のファン作り」を混同するな、ということです。
前者は単純に、動きが速くマーケティング効果がすぐ出てきやすい(しかも昔はボリュームゾーンでもあった)「若者」にフォーカスを当てたマーケティングが主流で、そのことを指しています。でも今ではかなり時代遅れの感覚と言わざるを得ません。
でも後者は全く違う話です。もし若い人を中心とする将来のファンを育成する活動を今のうちにやっておかなければ、今の主要な顧客たる老人層が一挙に減ってしまう近未来において存続の危機に立たされてしまいますよ、という警告なのです。
昔は映画業界も先を見てマーケティングしていました。どうしたのでしょうね。この知人のような近視的な人ばかりが業界の中で増殖したのでしょうか。