(以下、コラム記事を転載しています)
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医療従事者、そして65歳以上の高齢者が順次、ワクチンを接種されつつあるが、その次の優先接種対象は戦略的に考えるべき。その順番を間違えると、日本は感染力の強い変異株に蹂躙されかねない。
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65歳以上の高齢者に対するワクチン接種は7月末までに完了するめどがついたという。しかも職場接種を進めたいとする企業・大学が増えてきた。菅首相が提唱する「一日100万回」が目標の射程範囲に入ってきたといえる。
政府は当初、次は基礎疾患のある人と60~64歳を優先する方針だったが、最近この年齢順の指示を撤回し、現在は各自治体に優先順位の方針決めを任せている。基礎疾患のある人を先行させろという指示も、自治体は誰が基礎疾患を持っているのか把握できていないので難しいケースが少なくない。
政府のもともとの発想は「罹患した場合に重症化する恐れの高い人たちに優先接種してもらって、早く安心してもらいたい」というもので、「市民の不平・不満の的になりたくない」行政の思考としては理解できる。
しかし変異株が市中感染の主流になりつつある中で、感染再拡大とワクチン接種のスピード競争が、日本での第5波を防ぐことができるかどうかを決める。そのために必要な戦略的発想は「いかにクラスターの発生を抑制するか」であろう。ならば優先すべきは「クラスターが発生しやすい場所で活動せざるを得ない人たちに優先してワクチンを接種」することである。
しかもその際、この変異株ウイルスの特性(感染スピードがさらに上がり、しかも若い世代も感染・重症化しやすい)を踏まえることが今まで以上に重要だ。すると次のような、「他人と密になりやすい職場環境」で働く「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる人たちこそが優先されるべきだ。すなわち:
- 消防隊員(救急隊員が中心だがそれ以外も含む)
- 介護施設の従業員(介護士が中心だがそれ以外も含む)
- 保育施設の従業員(保育士が中心だがそれ以外も含む)
- 小中高校・大学の教職員
- バス・タクシーの運転手
注)以上には検疫所や保健所の職員が挙げられていないが、彼らは既に優先接種対象とされている「医療従事者」に明示的に含まれるという前提である。
こうした主張をすると、一部の人たちからは不平不満も出よう。例えば60~64歳の人たちからは「余計な事を言うな。せっかく『そろそろ自分たちの番』だと期待していたのに」というお叱りが出てくることが予想される。私もその年齢だからその気持ちはよく分かるが、エッセンシャルワーカーの人たちは毎日リスクを背負って出勤しているのだから、少しだけ譲ってあげて欲しい。ワクチンは国民全部に行きわたるだけの分量が確保されているので、焦らずにもう少し待って欲しい。
また、「タクシーは贅沢な移動手段だから、その運転手たちはエッセンシャルワーカーじゃない」と主張する人たちも出てくるかも知れない。しかしその見方は偏見に満ちたものだ。世の中には自ら車を運転できず、でも鉄道やバスを使えない場所に何とかして行かざるを得ない人たちが多くいる。タクシーは立派な公共交通機関であり、その運転手は間違いなくエッセンシャルワーカーである。
しかもその勤務には間違いなく感染リスクが伴う。このことは、このウイルス感染拡大の初期にタクシー運転手が感染、死亡した事例が何件もあったことで立証されている。そして自宅または施設で療養中の新型コロナ軽症・中等症患者が病院と行き来するのにはタクシーが現実的手段なのだ。是非、彼らも優先接種の対象に含めてあげて欲しい。