(以下、コラム記事を転載しています)
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世間に疎い若者は、「悪党が弱者を食い物にする」構図が社会に蔓延していることを知らない。そして経済的に困窮すると、「自分だけは大丈夫」「今回だけだから」と自分に言い聞かせて「危ない橋」を渡ろうとする。そんな自分勝手な思い込みを狙っている連中におびき寄せられてはいけない。
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コロナ禍で経済的に追い詰められたことで悪の道に迷い込む若者が急増している。ツイッターなどで「高額報酬」「裏バイト」「即日渡し」などというキーワードを検索すると、「闇バイト」に類する悪の誘いが幾つも目の前に並べ立てられる。そしてどの案件にコンタクトしても、相手は「手軽」「リスクなし」「即金」などという甘い言葉で安心させようとする。
「闇バイト」などという曖昧な言葉でごまかしているが、れっきとした犯罪への誘いだ。大抵は特殊詐欺の受け子か出し子だが、アポ電強盗やクスリの運び屋などさらに重い罪を犯させるものも少なくない。
借金を取り立てられている、今日の食費にも事欠く、今夜寝るところもない、など切羽詰まった事情を抱えているアナタは背中を押され、「多少は(警察に捕まる)リスクがあることは分かってはいるが、(相手は)『ばれることはない』というし、今回限りでやめればいい」と自分を納得させようとする。
アナタ、間違っています。いや、倫理的に間違っているなどと当たり前のことを言うんじゃない。「その思い込み、2重に間違っている」と指摘しているのだ。
第一に、もしその「闇バイト」に失敗して(つまり警察に捕まって)しまったら、それきりだ。アナタの未来は一挙に暗転し、マイナスからの再出発を余儀なくされる。仮に執行猶予がついても、今後の人生に前科はついて回る。今までアナタが潜在的に持っていた将来の可能性の大部分が失われてしまう。実にリスクと代償は大きいのだ。
第二に、もしその「闇バイト」に成功して、運よくそれきりで「抜ける」ことができたとしても(その可能性は限りなく低いが)、一旦安易な「濡れ手で粟」を経験したアナタは間違いなく、次に金に困った際には似たような「悪党の誘い」に頼るか、自ら犯罪に手を染めてしまうだろう。一度「矩(のり)を踰(こ)えて」しまった人間は弱いものだ。アナタは捕まるまで同じことを繰り返すのだ。
第三に、もしその直近の「闇バイト」に成功しても、ほとんどの場合、実はアナタは「抜ける」ことができないのだ。どういうことか。それはこの「闇バイト」を提供する、特殊詐欺などを仕組んでいる組織側の事情を知ればよく分かる。
彼らは組織構想的にはトップに、「金主」という半グレ集団のオーナーか、暴力団がいる。その直下に特殊詐欺の組織長がいて、ここまでは実行部隊の連中に顔も実像も知らせないので、安全圏にいる。そしてその配下にいる実行部隊長である指示役が受け子や出し子、架け子(電話を掛ける役目)を一般から集め、具体的な指示を出している。
特殊詐欺犯罪の現場で一番リスクを負っているのが、被害者と会う「受け子」であり、ATMなどで顔や全身を監視カメラに晒す「出し子」である。つまり「受け子」と「出し子」は警察にも捕まりやすく(トカゲの尻尾切りの「尻尾」だ)、それだけ新しい交代要員が常に補充される必要があるし、この連中がいればいるほど組織は詐欺件数を稼げる。
したがって犯罪組織からすると、(スキルが求められる「架け子」はもちろん)頭数が必要な「受け子」と「出し子」は一旦手の内に入り込んだら手放すわけにはいかないのだ(当然、切っても痛くない「尻尾」なので、いつでも切り捨て御免が前提だ)。そのため彼らがどうしているのか。
具体的には、「闇バイト」に応じてくるアナタに対し、まずは身分証明書を写した画像を提出させる。そして犯罪現場(例えば被害者宅の前など)で自分を写メした画像を送らせる(強盗の案件の場合には、縛られた被害者と一緒に写った画像を送らせるというから恐れ入る)。「アンタが途中で逃げ出さない保証だ」「カネが欲しいんだよな?」と言われると、現金が欲しくて切羽詰まったアナタはついその通りに従ってしまう。
そして運よくヤバい案件に成功してほっとしているアナタは当然、約束の金をもらえると思っていたのに、実際にはほんの一握りの金額しか渡されない。指示役に文句を言うと、「文句があるなら警察に行けばいいだろ、『振り込め詐欺をやりました』とね」と、けんもほろろだ。黙ってしまうアナタに相手はさらに追い打ちをかける。「もう1件やるんだ。さもないと今回の写真をネットにばらまくぞ、親にもばらすぞ」と。こうしてアナタは何度も犯罪を繰り返さざるを得なくなる。警察に捕まるまで。
つまりアナタは「今回限りでやめる」こともできないし、「警察に捕まるリスクは小さい」どころか、ほぼ100%なのだ。「その思い込み、2重に間違っている」と指摘した意味を分かってもらえるだろうか。だから言いたい、「破滅したくないなら、止めといたほうがいい」と。
ではアナタの今の窮状をどうしたらいいだろうか。そう、経済困窮者を支援するNPOに相談するのが一番だ。ではどうやったら適切なNPOに辿り着けるのか。地元の役所に相談して、身元のしっかりしたNPOを紹介してもらって欲しい。万が一にも、検索したときに「裏バイト」と一緒に「うちはNPOです、助けます」などと出しているところ(あるかな?)に相談するのは止めて欲しい。
PS 別記事でも書いたが、今はSNSの普及もあって、ごく普通の暮らしをしていた人がほんのささいなきっかけで簡単に悪の誘いに乗ってしまうことに驚いてしまう。10年ほど前には、普通の人向けには詐欺師からの誘いに注意するように啓蒙するだけでよかったのに、隔世の感がある。