(以下、コラム記事を転載しています)
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適切な人材がいないせいで新事業創出の取り組みが迷走したり頓挫したりすることはよくあること。それでも、人材不足を理由に取り組みそのものに消極的になるのは間違っている可能性が高い。
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日本経済新聞社グループの日経BP総合研究所が2020年9月に実施した調査『コロナ禍における新事業・新技術に関するアンケート』のサマリー結果を見る機会が最近あった。
調査対象は日経BPのウェブメディア利用者1,144人で、情報収集に対しまじめな人たちが多数を占めると言えそうだ。その調査結果の概要資料(『新事業の創出 待ったなし』(創見/SOU-KEN))は日経BP社にリクエストすれば(多分)誰でも入手できる。
https://bizinq.nikkeibp.co.jp/reader/License/show?itemId=C17110028
幾つか「やはりそうか」という傾向が表れていたので、ここで2つほど紹介したい。
1. 元々「新事業創出に積極的な」企業ほど、コロナ禍の中で更に積極的に
自社が新事業創出に積極的か否かを問う質問に対し、回答は「積極的」50.3%、「非積極的」49.7%とほぼ半々の割合である。これを「意外と多い」とみるのか、「半分しかいないのか」とみるのかは個々の人によって分かれるところだが、まぁ見事に半々に分かれたものだ。
(注)ちなみに回答者個々人の意見であって各会社の公式見解ではないので、その一部は自社の姿勢を誤解している可能性がない訳ではないことを付しておこう。
そして「減益」または「売上・利益ともほぼ変わらない」企業は4割程度しか積極的でなく、逆に「増益」である企業は6割前後が新事業創出に積極的、という具合に傾向が明らかだ。要は、コロナ禍でも好調な企業は新事業に積極的に取り組む余裕もあるが、そうでない企業では既存事業を何とかするのに手一杯ということだろう。
面白いのは、自社は元々「新事業創出に積極的な企業」だという人の46.2%がコロナ禍の中で自社の新事業創出への取り組みが「より積極的になった」という回答を寄せていることだ。
他のタイプ、すなわち自社が新事業創出に「まあ積極的」「あまり積極的でない」「積極的でない」と評価しているところでは、自社の新事業創出への取り組みが「より積極的になった」と考える人の割合は順に23.5%、10.1%、1.0%と格段に下がる。
やはり元々「新事業創出に積極的」な姿勢を持っていれば、コロナ禍の中にも機会を見つけようとするのだろう。「非積極的」な企業が全体で半分もいるのだから、競合を出し抜くチャンスが広がっているとも言えそうだ。
2. 新事業創出の課題はやはり「適切な人材の投入」
このアンケートでは「新事業を創出する際の課題」も尋ねている。複数回答を許しているが、55%の人が「適切な人材の投入」を挙げており、断トツの1位だ(他には「魅力的な案を出すこと」や「経営トップのリーダーシップ」などが4割程度で続く)。
この回答結果は全く意外ではない。似たようなアンケートでは、毎度ほぼ間違いなく1~2位あたりに入ってくる項目だ。しかも昔からそうだ。
つまり新事業を推進したいけど、それに適した人材が社内になかなか見つからないのでなかなか進まない、または迷走・頓挫してしまうというのは、現実の悩みではあろう。新事業に取り組む企業にとって「適切な人材の投入」というのは永遠の課題と言っていい。
人材の育成が既存事業を念頭に置いて、かつOJTを中心に行われているのが、大半の日本企業(大企業でも中小企業でもそう違わない)の現状だから、「新事業創出に向いた人材」を育てるノウハウが確立しているケースは稀だろう。ある意味、この傾向は当然だ。
しかし肝心なのはここからだ。「適切な人材がいない」と愚痴をこぼしているだけでは物事は進まない。
小生は猫も杓子も新事業創出に積極的になるべきだとは考えていない。むしろ、まずは本業をしっかりと安定させるのが大半の企業にとって先決だと思っている。そして「とりあえず新事業創出に取り組みましょう」と安易に薦めるつもりもない。新事業創出に注力するなら、きちんと戦略を練ってから取り組むべきだと考えている。
しかしその上で、戦略的に考えて新事業創出に取り組む必要があると判断したのなら、「適切な人材がいない」ことを理由に立ち止まることは間違っている可能性が大いにある。本当に新事業推進を進めたいのであれば、少なくともやる気さえあれば、手がない訳ではない。
例えば、として挙げれば次の通りだ。
- 社内でやる気のある人材を募集することで、やる気はあるが「埋もれていた人材」を発掘できるかも知れない。
- (社内に不足しているなら)社外に人材募集を掛けることで、経験とスキルを持つ人材を獲得できるかも知れない。
- 適切な他社に声を掛けることで、自社に欠ける部分を補いリスクを軽減できる協業相手が見つかるかも知れない。
「適切な他社」が自社だけでは特定できない場合、付き合いのある金融機関や地域の商工会議所、その他のサポート機関に相談してパートナー候補を紹介してもらうこともできる。事実、弊社の某クライアントでは1)も2)も実施済だし、3)も何とか探し出せることが多い。
どうだろう、あなたの会社でも前向きに考えてみては。