コロナ禍で前代未聞の状況に陥っている日本の観光業界ですが、その直前には別の件でちょっとした混乱に陥っていました。ソフトバンク、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)とインド発の新興ホテルチェーン・OYO(オヨ)が昨年3月に合同で設立した日本法人と、フランチャイズ(FC)契約を結んだ既存の中小ホテルが、契約後に売上の『最低保証』を一方的に減額されたり、期限内に支払われなかったりしたという問題です。
OYOは2013年、リテシュ・アガルワル氏が19歳で起業。個人経営の既存ホテルをフランチャイズ(FC)化し、わずか2年でインド最大の客室数を誇るまでのし上がっています。その原動力は膨大なデータの分析。宿泊の需給やイベント、天候などをAIで分析し、部屋ごとに料金を目まぐるしく調整して収益の最大化を図るモデルで急成長しました。
感心した孫正義氏はSVFを通じて10億ドル(約1100億円)を出資。その巨額の資金調達を基にOYOはインドのほか、中国、東南アジア、米国、欧州、中東、日本へと事業を拡大。世界800以上の都市で格安ホテルを展開しています。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66173
日本では「OYO Hotel」として全国の地方ホテルを攻める戦略と、「OYO Life」として賃貸不動産市場を変えるという戦略の二大柱を掲げてスタートを切りましたが、2019年8月ごろから徐々に雲行きが怪しくなり、後者に関してはついに昨年末にヤフーとの合弁解消となりました。
以下、OYO Life(こちらはこちらで色々な問題はありますが)はひとまず置いといて、OYO Hotelの失敗を振り返ってみてみましょう。
OYOのアピール点は先ほども説明したように、一つにはAIを駆使して料金を目まぐるしいほど最適に調整して収益の最大化を図ることと、もう一つは売上の『最低保証』をしたことです。新しいもの好きで、今までのソフトバンクの快進撃による威光に釣られた多くのホテルオーナーが当時は飛びついたようです。
しかし実態としては、OYOのAIがはじき出した部屋単価は大抵がとんでもない激安価格で、確かに稼働率は上がるのですが、コストを含めて計算すると全然儲からないホテルが続出したのです。しかもそれでも売上が当初の『最低保証』に達しないホテルも少なくなく、しばらくするとOYOの日本法人から一方的に『最低保証』を減額されたそうです。踏んだり蹴ったりですね。
そこでオーナー側はOYOの日本法人に「何とかしてくれ」と苦情を訴え、各種メディアにもアピールし、やがて業界団体でも問題視されるようになったという次第です。
経緯を辿ると、日本の市場をきちんと分析しないまま、見切り発車でFC展開をいきなり広げていったOYOの日本法人の戦略のまずさと、そのベースになっていたはずのAI機能のいい加減さに、主な失敗要因としては行き当たります。
後者に関してはベースとなる学習データが、インドを中心とする新興国のホテルと宿泊者のデータが大半だったと思われます。それをいきなり日本のホテルと宿泊者に当てはめようとしたのは大馬鹿者の仕業としか言いようがありません。仮にAI機能がまともであっても、前提の違う市場データを適用したら答が狂うのは当然です。これは機械学習に基づくAIの何たるかを理解していない人間ばかりが経営層を占めていることを示唆しています。
しかも日本での実績から見ると、OYOのAIによる価格提示はどうやら、稼働率を跳ね上げることはできても「収益の最大化を図る」というのは随分な誇大広告のようです。
聞けばインドではOYOの登場前には、宿泊施設で「清掃が行き届いていない」とか「予約したのに部屋が取れていなかった」などの問題は日常茶飯事だったらしいです。そこに一定水準の予約システムと運営管理手法を格安で提供したことにOYOの成功と急成長の理由があるとのことです。
でも日本にはもともとしっかりとした(予約を含む)運営管理の手法が各ホテルチェーンにも個々のホテルにも確立しています。敢えて新興のOYOチェーンに加入したホテルオーナーたちの期待は「従来並みの収益性を前提に、全体的に稼働率を上げてくれる」誘客の仕組みだったはずです。
でもそれが単純な激安価格しかないのだったら、日本で知名度の低いOYOチェーンに加盟する必要も別になく、従来の楽天トラベルなどの宿泊マッチングサービスで済ませればいいはずです。安くないFC料を支払わずに済みます。
慌てて加盟して痛い目に遭ったホテルオーナーたちにはキツイ言い方かも知れませんが、吟味と判断の甘さからして、経営者としてはレベルが低すぎる失敗だったのではないでしょうか。