「経営陣に女性がいる企業は業績がよくなる」という法則

ビジネスモデル

経営先進国と考えられている米国でも実は、女性の昇進を阻む「ガラスの天井」が相変わらず分厚い実態がある。そうした中、経営陣に女性が含まれる企業はパフォーマンスがよくなるという実証研究が相次いで発表された。この意味を考えてみたい。

小生の母校であるテキサス大学のMcComb School of Businessが最近発表した2つのグループの研究結果によると、経営陣に女性が含まれる企業はパフォーマンスがよくなることが実証された。

 “トップマネジメントチームに女性を含む企業は長期的にみて業績が改善される”というのがDavid Harrison教授と博士課程の学生、Seung-Hwan Jeong氏のコンビの研究の結論である。
 “女性役員は(男性では難しい)特有の見識を追加的に取締役チームにもたらすが、それは平均で10%近くものスキルセット拡張に相当する”ことを証明したのは、McComb School のLaura Starks研究副所長とトロント大学のDaehyun Kim准教授(McComb出身)のコンビである。

2つの研究結果は次のURLから取得できるので、興味のある方は読んでいただきたい。
 https://www.researchgate.net/publication/303717036_Glass_Breaking_Strategy_Making_and_Value_Creating_Meta-Analytic_Outcomes_of_Females_as_CEOs_and_TMT_members
 https://www.aeaweb.org/conference/2016/retrieve.php?pdfid=1474

米国でも「ガラスの天井」は厳然と存在しており、上場企業では従業員の約半分が女性なのに、Fortune 1000(中堅以上)企業の女性役員の割合は17.9%、2013年から2014年にかけてFortune 500(大企業)のCEOに指名された女性はわずか3.2%のみだ。

こう書くと「なんだ、米国だって大したことないんだ」と思うのは早計で、日本の上場企業の女性役員割合は2016年時点で3.4%と、比較するのさえ憚られるほどお寒い状況だ(内閣府男女共同参画局のHPを見ると主要国間の比較が見つかる)。

話を戻そう。ではそんな内部環境下で、なぜ女性が加わることで経営陣のスキルセットが改善し、パフォーマンスが上がるのか?結論的には、「女性のほうが優秀だからだ」という単純な話ではなく、異なる視点が加わることによる「多様性の力」なのだ。

経営陣に女性が加わると、閉鎖的グループでありがちな「あうん」の呼吸で物事を決めていくわけにいかず、もたらされた情報を解釈し、評価・決断する際に「なぜそうすべきか」をきちんと説明することが求められるという。

その過程で、財務的数値に偏った視点だけでなく職場での働きやすさなどといった人的要素に注目をしやすいなど、女性特有の視点が加えられるのが功を奏す、というのがHarrison教授たちの見立てらしい。

「女性がもたらす多様性が企業を強くする」という見方は特に新しい訳ではなく、ここ20年ほど、世界じゅうのマネジメント研究分野で直観的には語られてきた。特に、女性の役員比率の高い著名な北欧企業が長期間にわたって安定的成長とグローバルな躍進を両立させていることで、そうした考えが注目を浴びるようになっていた。冒頭の2つの研究グループはさらに、膨大な事例と数値を基にそれを実証したことが特筆すべき貢献といえる。

多くの人が気づくように、こうした多様性は女性のみがもたらすベネフィットではない。昨今注目されているLGBT(性的少数者)や、外国人など人種・文化の異なる人たちも同じ役割を果たし得る。彼らマイノリティがいることで、マネジメントレベルでも非常に有用なインサイト(洞察)を、そして幅広い層でイノベーションへの刺激をもたらすことが度々指摘されている。

社外取締役の導入が先進諸国で活発になった理由もよく似ている。つまり、その会社のカルチャーにずっと染まってしまった純粋培養の役員ばかりでは、仮に経営トップの判断や価値観が世の中とズレてしまっていても、疑問すら湧かずにそれを指摘できない。仮にコンプライアンス的に問題のある行為(偽装など)が上位の人たちの間で行なわれていることに気づいても、つい目をつむってしまう。

こうした硬直的な思考が横行していては「取り締まり」ができず、会社が間違った方向に進むことを防止できない。このリスクに対する懸念が社外取締役の導入を推進しているのだろう(個人的には、形式主義的で実効性に難のあるケースも多いのではと疑問視しているが)。

そして我々外部コンサルタントにもまた、社内だけでは不足するものを補う「専門家としての知見と経験」だけでなく、「第三者の視点」による気づきやチェック機能というのも大いに期待されているだろう。

保守的傾向の強い日本企業でもこうした多様性の重要さを理解できる経営者が増えると、硬直的思考のリスクを抑えながらイノベーションを促し、VUCA(変動/不確実/複雑/曖昧)と呼ばれる予測困難な時代を乗り越えることができるのではないかと思う。