「ハドソン川の奇跡」が示すプロ魂

グローバル

週末に映画「ハドソン川の奇跡」を観た。原題はSullyという機長の名(チェスリー・サレンバーガー)だということもその時初めて知った。さすがC・イーストウッド監督、ほんの3分足らずの出来事を引き延ばしたりせずに、全く違う切り口で緊張感を持って描き切ったと称賛したい。
http://blogos.com/article/192531/

鬼気迫る機内や救助シーンが視聴者を釘付けにするのは間違いないが、そうした胸の高鳴るシーンだけで120分を持たせることできない。そう考えたイーストウッド監督と脚本家のトッド・コマーニキが焦点を当てたのはSully機長の懊悩である。

40年以上の経験に基づいたサレンバーガーの大胆かつ冷静な判断は国家運輸安全委員会から嫌疑をかけられ、サレンバーガーとスカイルズは執拗な尋問を受ける。国家運輸安全委員会による公聴会は救出劇の直後ではなく、事故からなんと18カ月後だった。

映画を観た人は既に知っているが、嫌疑は覆った。それは経験の重さや直感がコンピュータによる計算・推測を凌駕することを示してくれる。AIが様々な場面で実用化されてしまう時代が近づく今だからこそ、この事が持つ深い意味を味わいたい。

この映画を観る直前にNHKの「アナザーストーリーズ 運命の分岐点」という番組で「ハドソン川の奇跡 ニューヨーク不時着 世紀の生還劇」の回を観ていた。そこではこの奇跡を可能ならしめた要因がいくつか挙げられており、そうした知識も映画をより深く楽しむのに手助けしてくれた。そもそも水上不時着がほぼ自殺行為だということもこの番組で初めて知った。
http://ameblo.jp/skyblue-junior/entry-12198460826.html

【視点1】機長チェズレイ・サレンバーガーの経験が生んだ的確な判断
サレンバーガー機長は空軍の出身。戦闘機のパイロットとして7年間、勤務した経験があった。何度も死線を乗り越える中で学んだ教訓は絶望的な状況の中でも決して悲観せず全力で立ち向かうこと。体にすり込まれた教えだった。そして着水時の機体の角度を11度に調整することだった。角度が浅すぎると機体全体に衝撃を受け、バラバラになる可能性があった。一方、角度が深すぎると後方への衝撃が強すぎて機体が折れてしまうのだ。

【視点2】船長ヴィンセント・ロンバルディの奇跡の救助判断
この日、ニューヨークの気温はマイナス6度。飛行機が刻々と沈み続ける中、1隻の船が現れた。到着したのは不時着から僅か4分後。ハドソン川の通勤フェリーの船長、ロンバルディが偶然、音もなく滑空して不時着した飛行機を目撃し、乗客を乗せたまま事故現場へと急ぎ駆けつけ、絶妙の操舵技術で波も立てずに飛行機に船体を寄せた。そしてフェリーに乗り合わせた一般の乗客たちは機体の周りにライフジャケットや浮輪を自主的に投げていた。ロンバルディ船長は周辺にいる他の船などに事態を知らせ、同様に駆けつけさせた。後は飛行機の乗客と駆けつけた船員とプロの救助員たちの懸命な助力と協力が奇跡を完成させる。

韓国で起きたセウォル号の水没事故と近い状況で起きながら、全く真逆の結果が待ち受けていた要因は、両者のキーパーソンたちが高いプロ意識を持ちそれに恥じない行動を起こしたかどうかの違いなのだ。

そう。「ハドソン川の奇跡」は類稀な機長の判断力と操舵力が最大要因ではあったが、それ以外の多くのプロフェッショナルが「すべきことをなした」お陰で起きた、素敵な現代の奇跡ストーリーなのだ。