ボヤキに耳を傾けるニッチ農機具メーカーが世界に羽ばたく

グローバル

10月22日に放送されたカンブリア宮殿「農家&世界が感動!スーパーニッチ“ものづくり”」を録画で観た。フィーチャーされていたのは筑水キャニコムの包行均(かねゆき ひとし)会長。実に感心した。

筑水キャニコムの製品は、全国の様々な果樹園で使われている農業機器。ニーズに極め細かく応じた商品展開で人気を集めている。特に運搬機のジャンルではトップシェアだ。

それぞれの機能を表したネーミングで有名だ。例えば、実にかっこいいデザインの草刈機は「草刈機まさお」(村上龍氏が欲しがっていた)。多分、聞いたことのある人も少なくないはずだ。音の静かな電気駆動の三輪運搬車は「三輪駆動 静香」。どんな場所にも電気を導くことができる電源付き運搬車は「伝導よしみ」など、ユニークすぎる名前で農家に親しまれてきた。

そんな筑水キャニコムは、福岡市から車で1時間の、うきは市という田舎町にある。歯車の削り出しから完成品まで一貫で作り上げる本社工場では、トラクターなどの大手農機具メーカーが手がける商品には手を出さず、ニッチな分野に絞った製品づくりを行っている。番組の中でも展示会の様子が紹介されていたが、クボタやヤンマーなどの大手メーカーと比べると、展示スペースは半分程度だが、来場者は多いため「人口密度」が高いのだ。

創業者である父の跡を継ぎ、飛躍的に業績を拡大したのが、現会長の包行氏だ。24歳で父の会社に入社。当時、製品のアフターサービスに問題が多かった会社で氏は、その改善のために全国を歩き、農家の声を聞き続けてきたという。

そんな中で行き着いた製品づくりの信条が「義理と人情」。工場にはそこらじゅうに「モノづくりは演歌だ!」とのスローガンが張ってある。これがこの会社の心意気をうまく表現している。大手メーカーに真似のできない極め細かいスタンスで農家の要望に寄り添い、他にない製品を作り上げているのだ。

感心したのはその独自の手法。営業担当が顧客農家を廻り、商品への感想をビデオに収める。そして撮影した動画を開発部門の社員全員で共有し、埋もれがちだった製品への「声にならない不満(ぼやき)」を顕在化させ、商品改良に生かしていったのだ(これは実に効果的だ。是非、クライアントにもお薦めしたい)。

例えば、果実農園の枝の下を座って運転しても頭がぶつからない低さ、凸凹のあぜ道でも衝撃を吸収する、荷台がせり上がり収穫した農産物のかごを滑らすだけで軽トラックに積み込める等々、運搬車だって色々な改良点が実現されている。筑水キャニコムはそんな手法で、農家を感動させる使いやすさを生み出し、圧倒的支持を得ているのだ。

農家の声に耳を傾けて生み出した独自の製品で、今や筑水キャニコムは世界40カ国に商品を展開するグローバル企業となっている。そして海外専門のスタッフとして様々な国籍の人材を社員として採用し(多様性の重要性を理解している!)、アメリカの巨大農場から東南アジアの奥地にまで進出している。しかも海外の現場でも農家の“ぼやき”発掘に力を入れ、徹底した義理と人情のものづくりで、さらなる改良を行っている。

これは本当に素晴らしい企業だ。