日本への興味を増す中国人、中国から離れたい日本人

グローバル

9月28日(月)に放送された未来世紀ジパングは「シリーズ”中国異変” 反日中国でなぜ?知られざる日本ブーム」。とても興味深い情報が満載だった。最近の中国といえば「抗日軍事パレード」「経済崩壊か?」といったネガティブなものばかりだったので、意外な中国の側面を教えてもらった気がした。

まずは日本のスーパー銭湯「極楽湯」が上海で人気を呼んでいる様子が紹介される。そしてそれに続いて「極楽湯」の運営法をそっくり真似した中国製のスーパー銭湯の様子も。でも似て非なる模倣店の状況とそれを偵察して、「これなら怖くない。でもこんなコピー店で極楽湯と勘違いして欲しくない」という「極楽湯」の現地責任者の力強い言葉。何となくほっとしてしまうのも日本人の性か。

そして「爆買いツアーの“仕掛け人”」の話。上海と日本を結んでいる豪華クルーズ船が2700人の中国人を乗せて向かった先は長崎市。彼らの最大の目的は、やはり買い物だ。しかし今、爆買いツアーに新たな変化が起きている。ドラッグストアでの彼らの買い物の様子を見ていると、ある特定の商品だけが飛ぶように売れていた。彼らは中国にいる“仕掛け人”のおすすめ商品を買っているのだ。その情報源とは、一人の若い女性ブロガーだった。

中国・上海には彼女のような「日本で何が人気なのか」を紹介する人気ブロガーが何人かおり、日本製品に埋め尽くされた自身の生活をブログで発信しているのだ。そしてそれがとても凄い数(54,000人!)のフォロワーを伴っており、それが日本ツアーでの爆買いにつながっているのだ。個人的趣味でやっているのだが、当然、日本のメーカーも放っておかない。その口コミ力に期待して、彼女たちに新商品を逸早く紹介しているマーケティング活動を行っているのだ。

最初はむちゃくちゃ不思議だったのが、中国の若者に絶大な人気を誇る日本人、山下智博さん(30歳)の話。見かけは大してぱっとしないし(失礼!)、日本では全く無名の人物だが、上海の街を歩けば写真をせがまれ、感動して泣き出す人まで現れるほどの人気ぶり。ほとんどアイドル並みだ。あるイベントに行くと、3人の警備員に囲まれるVIP待遇だ。数百人のファンが追っかけてくる異常事態に。山下さんは一体なぜ、中国でカリスマになったのか?

実は山下さんは上海大学に通う日本人留学生。前衛芸術を研究している。独学で学んだ中国語を駆使し、日本に関する情報を伝える自作動画を毎日ネットにアップしている。(教科書に載っていない)日常的な日本語会話や、今の日本の若者文化に関する情報を率直かつ面白く伝えており、大人気なのだ(累計再生回数が何と2億4千万回!)。中国最大のネット動画コンペで何とグランプリまで獲得したそうだ。このバラエティ的な映像表現が中国の若者の心を鷲づかみしたのだ。「本当の日本」を伝えてくれる真の文化大使だ。

同様に、日本に関する正しく詳しい情報を伝えてくれるメディアがある。「知日」という月刊誌だ。日本に関する特定のテーマ(「制服」「暴走族」「礼儀作法」等々)を深掘りして発行しているが、これが書店で売れ筋商品となっているのだ。本来は毎月発行なのだが、最近は当局の検閲が厳しく、2ケ月に1回になっているという。発行人に対し身の安全を危惧する声すらあるという。しかし必ずしも「親日」という内容ばかりではないため、当局もへたに手を出しにくいのだろう。

ファンの投票で順位を決めることができるアイドルグループSNH48(AKB48の上海版)が人気であることも中国政府には面白くないようで、対抗馬として「56輪の花」という官製アイドルグループを作って愛国的な歌を歌わせているとの話には思わず笑ってしまった。中国民衆もそこまでバカじゃないだろう。

一方、日本人の中国旅行がどん底だという。2010年に370万人いたのが、2014年には247万人と、日本人旅行者の数が激減したのだ。この大半は仕事での出張だろうから、プライベート旅行は壊滅状態といえる。大気汚染、食品問題、反日と、立て続けに問題が起こった結果だから、当然ではある。誰だってそんな国にプライベートで行くのは嫌だろう(仕事でもできる限り避けたいものだ)。

大手旅行会社H.I.S.でも、3年前の15分の1まで客数が落ち込んでいるそうだ。同業他社が撤退・縮小をする中、H.I.S.はスタッフ数を維持し、社を挙げて中国旅行を売り出そうと決意したのだ(かなり難しく悲壮な決断だ)。

そんな状況下、上海支店リーダーの安達さんが提案したのは「絶景ツアー」。目玉は、映画アバターのモデルとなった世界遺産・武凌源。太古の昔、地殻変動と雨による侵食によって作られた巨大な岩柱が3000以上並ぶ、壮大な光景だ。まさに秘境だ。

自然の「絶景」を前面に出して売り出そうとする安達さんに、平林社長が一言、「中国だと分かったほうがいい。中国を前面に出せ」と(個人的には疑問に思うが)。社長に対して反論できず、葛藤する安達さん。そして悩んだ末、その地方に住む少数民族との交流を加え、中国の奥深さを訴求することとした。これはヒットだ。でもやっぱりツアー客が本当に感動したのは「絶景」だった、とは思う。

いずれにせよ、上海や北京にはもう日本人は行きたくない。ましてや中途半端な地方都市はもっと危険だ。その点、日本にない広大な自然と歴史的背景を持つ土地であれば、いくら中国でも行きたいと考える日本人旅行者もいよう。H.I.S.が中国を離脱しない覚悟を決めたのなら、そうした極端なところを探し続けるしかない。