ビッグデータ分析や自動運転などで近年急速な広がりを見せている人工知能(AI)。仕事での必要性もあるのだが、個人的にも興味が元々あるので、ずっと情報を追い掛けている。
2011年にスタートした「ロボットは東大に入れるか?」というユニークな名前のプロジェクトの責任者が国立情報学研究所 情報社会相関研究系の新井紀子教授(この方、実は一橋出身らしい)。
9月3日(木)に放送された日経プラス10(BSジャパン)の「トーク+(プラス)」コーナー「人工知能で東大合格を目指す…ここまで来た実用化と未来予想図」のゲストとして、新井教授は次のような素朴な疑問について語っていた。
将来ホワイトカラーの仕事の多くを奪うとも言われているAIは、一体この先どんなことまで出来るようになるのか?またそこから生まれる新たなビジネスは?
番組の中では(大学入試問題は難しすぎて視聴者がちんぷんかんぷんなので)中学生向け問題を例に挙げていたが、それでも大半の大人にはすぐには解けない問いを、人口知能はすぐに「問題が何を問うているのか」を認識し(この部分が難しいらしい)、すぐに数式を導き出して正解してしまった(ただし中学生が解くやり方ではなく、専門数学的な解法だったようだが)。
現在、このプロジェクトの成果を代ゼミの全国センター模擬試験で試してみると、偏差値はいずれも50点前後と、ほぼ受験生の平均値付近まできているらしい。国語・英語・世界史はおしなべてよく、数学と物理は難しいそうである(つまり問題文の解釈が難しいのだろう)。
あと、面白かったのは「人口知能に奪われやすい仕事とは?奪われにくい仕事とは?」という話題だった。キャスターの山川龍雄氏が特に気にしていたのだが、前者は「弁護士、銀行員(融資担当など)、薬剤師、記者」となっていたのだ。
新井教授の解説で納得できたのだが、要はAIとかコンピュータが得意なのは膨大なデータから条件に該当する記録を瞬時に検索し並べ替えたりすること。
弁護士・弁理士の助手や薬剤師などは過去の類似事例を引っ張り出して調査・分析することが中心だが、これはAIに代替されやすい。融資担当も膨大な過去の融資事例から倒産に至ったパターンなどを分析すれば、仕事の多くは済んでしまう(実は小生も以前、そうした提言をしたことがある)。記者も官庁や企業の発表文書を編集するだけの仕事なら、すぐにAIが代替できるとのことだ。
実際にはそうした「補助的」な業務はアシスタントや新人が行っているので、将来は彼らを育成する手段として敢えて残すのか、それともその部分はAIにやらせて、新人育成方法は別途編み出す必要があるのかが、いずれ問われるようになるとのことだった。
コンサルタントや投資銀行業務も似たようなものだ。もしかすると将来は戦略策定・交渉業務に長けたベテランとAIの組み合わせだけでほとんどのファームが仕事をこなすようになるのかも知れない。そうするとビッグファームと当社のようなブティックファームの違いはあまりなくなるということか。
ちなみに「人口知能に奪われにくい仕事」として例に挙がっていたのは、保育士と介護士。要は、過去のパターンをいくら覚え込んでも大して役に立たず、目の前の幼児や老人の個別的事情や感情をくみ取って個別に対処するしかないからだそうだ。確かにそうだし、ロボットに感情を理解しろといっても難しいということなのだろう。しかしペッパー君はもしかするとこのハードルも超えるのでは、と小生は怖々と期待(?)している。