今年3月、「建国の父」リー・クアンユー元首相が亡くなり、この8月9日には建国50周年の節目を迎える。
8月3日に放送された未来世紀ジパングは『巨星墜つ・・・超優良国家!シンガポールの”表と裏”』。歴史的経緯や現代の制度など知っていたことはある程度あったが、改めてこの特殊な国を考えるいい機会になった。
今やシンガポールはアジア1の金融経済国家。シンガポールの一人あたりのGDPはアジア1位と日本、米国をも上回る。6世帯に1世帯が資産1億円以上という世界一の富裕国家である。
観光と金融、貿易がこの国の最大産業である(実は石油化学コンビナートも巨大なものがあるが、番組では触れていない)。したがってそれらの産業を支援する様々な制度・体制を築いている一方で、阻害要因をかなり強制的に排除している。その後者部分を番組では”裏”と呼んでいたのである。
観光にとって重要な体制の一つが航空会社であり、それを代表するのがナショナルフラッグ、世界一のサービスを誇るシンガポール航空である。番組ではその訓練の厳しさや行き届いた顧客視線を、日本の別の航空会社から転職した新人CAの目線で語らせていた。「常にエレガントであれ」と、歩き方から階段の昇り降り、タクシーの乗リ方時まで徹底指導しているのには恐れ入った。さすが世界一の評価を続けているだけはある。
観光にとっての大敵は疫病と犯罪。前者については徹底したデング熱対策により隣国・マレーシアより数段低い発生率がその効果を物語っていた。
後者に関しては“公共の場の風紀を守る”という国家戦略にもなっているのだが、小さなルール違反にも厳しく対処することで(様々な罰金で有名)、「この国は法規違反にうるさいし、へたに逆らうと仕事も生活もできない」と普段から思わせているようだ。
それに加えてさらに効果的なのは戸外の至る所に設置された監視カメラ。ただ、ここまで密集していると完全にマイノリティリポートの世界。我々の感覚だと、少々息苦しい。夜の繁華街をも国家当局が管理徹底しているのには驚いた。
番組では紹介されていないが、国際手配されている犯罪者やテロリストが入国しないよう、チャンギ国際空港には世界最高水準の水際システムが配備されている。また、あることで知ったのだが、同国の警察のIT装備は犯罪大都市・NY並みで、犯罪の予防・摘発に賭ける意欲は並大抵ではないことは間違いない。
金融の促進に関しては番組でも紹介があったが、株式取引税と相続税、住民税がゼロ、実質的な所得税は5~6%程度(日本ではそれぞれ概ね20%、50%、10%、40%)なのは凄いことである。世界から富裕層が殺到するわけである(だから一人あたりのGDPや世帯当たり資産が飛び抜けて高いのは当然なのである)。
最後に紹介された、官僚国家のための官僚選抜の厳しさ(小学校の時点での試験で決まる!)と、官僚に対する手厚い報酬は初めて知る内容だった。給料やボーナスは、固定給と変動給に分かれ、GDP成長率とも連動している。ある程度のポジション以上になると国家経営の企業の幹部にもなり、億円の単位の年収にまでなるそうだ。
もちろん優秀な人材を国家に奉仕させるためだが、裏を返すと「不正に手を染めさせないため」という明確な目的が透けて見える。ここが日本や中国より戦略性があるところだろう。
番組のコメンテーターの一人がいみじくも言っていたが、「シンガポールは国家というより会社」。効率を重んじ、利潤を生みだすことを目的としているので、ルール違反に厳しく、個人の信条やプライバシーの保護には限定的。まったくその通り。この体質に拒絶反応がない人にはとても清潔で住みやすい国らしい。