「のざき牛」を育てる優れた仕組みと経営者の心意気

ビジネスモデル

2月12日 に放送された「カンブリア宮殿」。今回は農業生産法人のざきの野崎喜久雄社長でした。題して「1次産業にこだわる!世界が注目する和牛王の不屈経営術」。放送後、「のざき牛」のステーキを食べたくなりました。

鹿児島県薩摩川内市で和牛の大規模肥育を営む農業生産法人のざきでは、黒毛和牛の肥育に特化し、最高級黒毛和牛を安定的に大量生産しています。育てた牛は、肥育期間が通常よりも約3ヵ月短く、病気になる数も大幅に少ないといいます。そして、国内の牛肉コンクールでは数々の賞を受賞してきており、東京・恵比寿の外資系高級ホテル・ウェスティンの最上階にある鉄板焼店でも絶大な人気。ウェスティンでは、「のざき牛」を扱うようになってから売り上げが急増したといいます。いまや引っ張りだことなっているのです。そもそも牛肉のブランド名に「のざき牛」という個人の名前を付けたのは、国内では野﨑氏が最初だそうです。

薩摩川内市にある「のざき」の牧場では、一般的な肥育会社の100倍近い4800頭が育てられています。しかも何とわずか15人で育てているというのです。最高級の牛肉を少人数で育てる秘密は、野﨑氏が生み出した独自の肥育法にあるといいます。15人の従業員はそれぞれ牛舎を持っており、通常の牧場での主たる作業はほとんどしません。餌やりは飼料会社のベンダーが飼料を詰め込んだ機械のボタンを押すだけで出てきます。糞の掃除は外部業者に委託して毎日きれいにしてくれます。

では従業員は何をするのか。自分の育てている「牛さん」たちが、本当に気持ちよく過ごしているか、病気になっていないかと常に見回り、世話をしているのです。余計な力任せの作業がないから女性従業員も何人かいます。彼ら彼女たちは本当に「牛さん」を可愛がり、なでてやったりするのです。これは牛たちも気持ち良く有難いはずで、肉がうまくなるのは当然ですね。

従来の牛の肥育はうっかりすると作業だけで疲れ果ててしまい、牛の体調に気を使う余裕はあまりなかったかも知れません。他の農家・農業生産法人で3%程度の牛の死亡率が、「のざき」では1%程度なのが、この違いを雄弁に物語っています。

しかも平均年齢25歳という若い15人の従業員は仲間であると同時に、ライバルであるのです。牛舎まるごとを任せられ、一人で400頭の牛の世話をします。誰が一番よい牛肉の牛を育てることができるか、毎日切磋琢磨しているのです。本人たちのやりがいもあって、会社としても儲かる、正しい仕組みです。他の農業法人でも参考にすべきです。

この番組ではちょっといいエピソードも開帳されていました。全国に31万頭以上の子孫を持つと言われる伝説のスーパー種牛「平茂勝」を見出したのは実は野崎社長。輸入牛肉の自由化に怯える日本の畜産業界の中で決然と「和牛の育成で輸入牛肉に対抗しよう」と考え、これまでの2倍近くの大きさに成長する種牛を見つけ出し、それを種牛にして和牛を育てる方法に舵を切ったのです。しかも彼はこの平茂勝を独占することなく、日本全国の和牛生産者が買える仕組みにして、国内の和牛関係者を輸入自由化という荒波から救ったのだそうです。素晴らしい、男気のある経営者です。