日本企業の新卒採用の実態は、実は進化していない

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9月1日(月)放送の「クローズアップ現代」(NHK)は「シリーズ 成長への人材戦略① 
どう確保?有望な新卒」でした。

このシリーズ1回目は、異変が起きている新卒採用の現場からの報告です。今年、企業の大卒求人総数は約14万人(去年比25%増)増え、いわゆる“売り手市場”に様変わりしています。ついこの間まで就職氷河期と言われ、ブラック企業がのさばっていたのに、本当に数年で隔世の感があります。

その結果、企業間での新卒の奪い合いが激化し、内定式のひと月前になっても、大企業ですら人材が集まらないという事態も起きているのです。ファミレスを展開するロイヤルホールディングス(いい会社です)。会社説明会に参加した1,100人余りから選び抜いた学生58人。その内定者のうち半数以上が辞退(それらの辞退者の行き先は航空や商社、金融など、バラバラでした)。内定式までおよそ1か月。目標の40人まで14人足りません。

介護や医療などの新しい分野に進出し、業績を拡大しようとしていた矢先だけに、危機感を抱いています。必要な人材を確保できなければ、今後の成長に影響が出かねません。なぜほかの企業を学生は選んだのか。反省点として、社員が具体的にどのように仕事をしているのか、学生に十分に伝えられなかったと考えています。今、会社では、これ以上内々定の辞退者を出さないため、入社後の働き方などを若手社員に説明させています。

同社の菊地唯夫社長のコメントです。「来年、再来年、もっと厳しくなっていくと思う。人が枯渇してくるというのは、我々だけの話ではないので。その中で選ばれる企業にするためには、どうしたらいいかと我々自身が問われていて、企業が持続的成長を目指すなら、採用も持続的な採用が大事なコンセプトではないか」と。まったくその通りですね。

必要な学生の確保に向けて企業の採用戦略が問われる中、新たな動きも起きています。企業から内々定を得ている学生を、ほかの企業が引き抜くためのサイトです。およそ3,000人の学生が登録しています。内々定をもらっていても、より希望に合う企業に就職したいといった学生です。

企業は学生のプロフィールを見て、採用したいと判断すれば勧誘のメールを送ります。採用が決まれば、サイトを運営する会社に報酬としておよそ90万円を支払うという仕組みです。番組では名刺情報共有システムのSansanがこのサイトを使って他社の内々定学生を引き抜く動きを紹介していました。でもこの仕組み、引き抜き合戦という不毛の闘いを助長し、条件で動く学生の劣情を刺激し、サイト運営者だけが儲かるだけで、あまりフェアとは思えません。こんなのアリですか!?

ゲストに招かれていた、横浜国立大学の服部泰宏准教授が解説していました。「世の中の景気の変動に合わせて、企業が採用を合わせていくという実態があった…そもそも日本企業は新卒採用を行ってるというのは、10年後、20年後に優秀な人、この会社を引っ張っていく人を採ろうというのが…優秀な人をちゃんと今のうちに採っておこうと、こういう発想に、少し、日本企業が変わってきているのかな…」と。

でも、本当に日本企業が変わってきていると断言するのは早いと思います。大半の企業は、今は景気が回復して人材募集を再開しようとしたら取り合いになっている状況を見て、「これなら景気の悪い時にも採用を続けていたらよかった」と愚痴を言っているに過ぎないと思いますよ。はっきり言って、小生が知っている大企業のサラリーマンの大半は近視眼的です。

服部准教授が指摘していた面白い状況として「三極化」があります。売り手市場というのが当てはまるのはごく一部のトップ層の学生(偏差値の高い大学で、アクティブに大学生活を送ってきた人たち)だけだというのです。多くの学生は、1社内定もらうのに非常に苦労しており、もう1つ非常にその頑張っているんだけれども、そもそも内定すらもらえない層というのがある、という実態があるのです。この分析には納得性があります。

また、まだ日本企業が変わりきれていないのは、用とか面接で見ている能力というのは、非常に各企業、同じようなこと(例えばコミュニケーション能力とか協調性)を見ているという指摘がありましたが、まったくその通りだと思います。そもそも自社・事業の戦略を明確にすることが第一で、それができれば自ずと採用したい人材像は明確になります。人事・採用コンサルなどに指導されているようではダメなのです。