BSフジで7月30日(水)に放送された「中国・期限切れ肉問題 根本問題と残る不明点」は非常にいいポイントを突いていました。ゲスト解説者がよかったのだと思います。そのゲストは3人。高谷幸氏(公益社団法人日本食品衛生協会専務理事 元厚生労働省食品安全部監視安全課長)、興梠一郎氏(神田外語大学アジア言語学科教授)、柯隆氏(富士通総研経済研究所主席研究員)です。
必ずしも3人の意見が一致しているわけではないですが、専門と視点が違い、うまい具合に多様な視点がカバーされてバランスが取れた内容になっていました。
中国は今、政治の最重要課題として食の安全を挙げています。近年の中国で色々な食品安全問題が起き、国民の関心が高まっており、経済成長率が下がっている中で、共産党政権としても最重要せざるを得ないのだそうです。
2009年に制定された中国の食品安全法は元々ある規制(日本の食品衛生法をベース)の焼き直しに過ぎず、新たなものではないといいます。問題は法律の不備ではなく、運用体制です。日本のような保健所組織網がないため、中央政府ではなく地方政府の実践努力(本気度)に依存せざるを得ないのが実態のようです。
一番の根本問題は罰則が甘く、業者としては悪事を働いて見つかるまで儲けまくったほうが有利だということ。仮に見つかってしまったら罰金を払い、会社の看板を掛け替えてしまえばよいということです。そして儲けている大手の業者は地方政府に鼻薬を嗅がせているため、逮捕もされないということです。つまり司法がいい加減で、法治国家でなく人治国家なので、権力者に近い人間なら得をする構造なのです。
ゲストの1人が指摘して他の人たちも気付いたのが、次の点です。「疑惑の映像、あれはカメラ目線がちょうど肉のそばで撮っていますよ」「隠しカメラで撮ったとは思えない。従業員が協力しているような不自然な映像だ」等々。要は現地メディアが正義の鉄槌を下した格好になっていますが、実は政治的なキャンペーンの一環だったのかも知れません。
対象が米国企業OSIの現地法人だったことから、米国に対する政治的けん制なのではないかという見方もありますが、これは単純には頷けません。米国に対する食品輸出は中国としては政治的武器の一つでもあり、それを自ら傷つけるのは賢いやり方ではありません。したがって統一された政治的方針というより、共産党内での権力闘争的対立が表面化したのかも知れません。もしかすると、米国系でなく中国系の食品メーカーの製品を買え、という国内業者や国民に対するメッセージなのかも知れません。
ここで間違いなく言えるのは、食品衛生管理がしっかりしているはずの米国企業系でさえ、この体たらく。中国人自身が認めているように、中国の業者にモラルは基本的にはありません。ビデオの中でも、そして摘発された際にも従業員が叫んでいました。「(腐っている食品を)食べたって死にはしない」「どこだってやっているわよ」と。
自衛策は一つ、中国製の加工品を買わないことです。生産者自身が食べる生鮮食品なら大丈夫ですが、生産者が食べないもの、特に姿形が変わってしまう加工品は危険です。そして日本の飲食業や加工食品メーカーがそうした認識をしっかり持つこと。中国人業者に対してはHACCP準拠だからと鵜呑みにせず、(性善説でなく)抜き打ち検査や潜入捜査を時折行うことです。
それらが面倒だったら、いくら多少高くとも、信頼できる日本企業が経営する現地加工工場に調達先を限定するか(それでも野菜は農薬汚染されていますが)、タイ・インドネシア等に調達先を変えることです(それでも悪徳業者は多少いますが)。さもないと、こうした問題は繰り返されるのは間違いありません。