日本の道路インフラはこれから危機的状況を迎えようとしています。今ある分の維持だけでも膨大なコストに上りそうで、今の体制・予算ではとても面倒を見切れません。それでも新設したい自治体は、国に頼らない方法を模索すべきです。
東日本大震災から3年、いっこうに復興が進まないという声がそこかしこで聞こえます。「国土強靱化」の掛け声と景気回復に背中を押された建設ラッシュによって、人手と資材、建機や輸送車などが奪い合いになって不足し、高騰しています。そのため当初予算に収まりきらずに入札が不調になり、工事が進まないのです。ましてやこの後、増税後を見越した5.5兆円の経済対策、東京オリンピックへ向けた首都圏の整備といった要素が重なり、今以上に事態が悪化する可能性が高い状況です。これは以前、小生が指摘した通りです。
http://www.insightnow.jp/article/7900
その裏で恐ろしい事態が進行しています。橋が老朽化したり道路が陥没したりして通行止めになるなど、通行規制が掛るケースが全国で急増しています。実は我が国では今、高度成長期に集中的に建設された道路インフラが寿命を迎えつつあるのです。しかもこの事態は随分前から警告されていながら、予算不足を理由にほぼ放置されてきた問題なのです。
国土交通省は昨年末、全国のインフラ(道路だけではなく役所建築物など含む)の維持管理や更新にかかる費用が、10年後の2023年度には今年度より最大4割増えて年間4.3~5.1兆円に達するとの試算を発表しました。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS25041_V21C13A2EE8000/
その試算には先に触れた、インフラ建設関連のコストが急増している状況がどれほど反映されているかは分かりませんが、官公庁の建設コスト見積りには後になればなるほど膨れ上がる傾向があることは留意すべきです。いずれにせよ、道路インフラだけでもその維持管理にはこの先とてつもないコストが掛ることだけは確かなようです。
実は国交省は2014年度から道路の橋やトンネルの定期点検を地方自治体に義務づけており、建設から50年以上たったものや災害時の輸送道路を優先して点検するよう求めるそうです。昨今のインフラ危機の進行に対し、管理責任者としての自覚と維持実行を求めた格好です。しかし自治体の多くには専門的知識を持った人員もおらず予算も不足している上に、そもそも危機意識もないのが実態です。管理資産でありながらトンネルの点検を全くしていないことを指摘した取材メディアに対し、「トンネルというものは壊れないものだと思っていたから」と言い訳をする自治体が続出したことや、対象の自治体すべてが点検マニュアルすら所有していなかった事実が発覚しています。
では橋や道路そのものについては大丈夫なのでしょうか。少なくとも高速道路の上をまたぐ陸橋のうち、全く点検されていないものが全国に635本あることが、昨年9月に会計検査院に指摘されています。約3500本については、陸橋を管理する自治体などの点検状況を高速道路各社が把握していないことも同時に判明しています。そして小生の知る限り、普通の自治体では道路インフラに関し日常的な点検・予防措置は行っておらず、住民やドライバーから破損や崩落を指摘されてはじめて現場状況を把握し、修復の手配をするのが精いっぱいです。
維持管理責任者という観点でいうと、高速道路を含む有料道路は各道路事業者が、国道は国交省の地方整備局が、それぞれ専門家を擁して(そして予算を確保した上で業者を使って)メンテナンスをしているので、コスト高以外の問題はあまりないと考えられます。問題は県道(都道府県)・一般道路(郡市町村)のレベルで、特に後者です。先に触れたように、道路インフラに関する専門的知識を持ったスタッフもおらず、予算も絶対的に不足しているのが実態だからです。
道路インフラも通常の建築物と同様、適切なタイミングでの補修ができずに先延ばしすると、後々大規模な補修・作り直しが必要となり、却ってコスト増につながりやすいものです。ましてや破損が引き起こす事故・渋滞、災害による被害増大の恐れも高まります。同じような道路インフラの老朽化に80年代に直面した米国では、橋が落ちたり道路が陥没したりした事故が頻発しました。日本でもそうした事態に直面しつつあるのです。
もともとインフラ維持コストを深く考えないままに、景気対策も兼ねて全国で道路建設を押し進めた国土交通省と地方自治体、土建屋票依存の政治家たちの浅慮と先見のなさが、ここにきて露呈しているとも云えます。とはいえ実際に困るのは、道路が陥没したりトンネルの壁がはがれたりして事故や通行止めに遭遇するドライバーであり、トラック輸送によるサプライチェーンが切断されてしまう企業および消費者です。
社会保障費がブラックホールのように税金による歳入を飲み込もうとする現在、道路関連予算の総額に余裕がなく、建設・維持コストが共に高騰しつつあることを考えると、優先度からいって道路の新設は極力抑制することが、政策方針として最低限必要です。ましてや道路や橋は一旦作ってしまうと、後々のメンテナンスコストはばかになりませんし、建物のように途中で使用中止ということが難しい代物です。そもそも人口縮小時代を迎えたニッポンで、道路新設が必要なケースは稀なはずです。それに「国土強靱化」の看板に付け替えていようと、公共事業による景気カンフル剤を続けることは無理・無駄だと、我々は数年前の自民から民主への政権交代時に学んだはずです。
全国的にみて交通量が多くもなく急増してもいないにも拘らず、どうしても道路を新設したい自治体は、自らその建設コストをほぼ全額負担するか(つまり国による建設や補助金をあてにしないということ)、道路通行の有料化とPFI(Private Finance Initiative)手法を併用して、利用者から回収可能な範囲で行うべきです。実際にそうした手法で新たに建設できる道路は多分ごく稀ですので、それによって我々の社会にとって「身の丈に合った」道路インフラだけに絞られていくはずです。