3月4日(火)放送のNHK「クローズアップ現代」は「なぜ進まない 再生可能エネルギー」でした。新聞やTVのニュースでは分からなかった事実をこの番組は教えてくれましたが、同時に大きな疑問も残しました。
3年前に起きた福島第一原子力発電所の事故をきっかけに、国は再生可能エネルギーの促進へと大きくかじを切りました。 普及の起爆剤と位置づけた太陽光発電ですが、実際に発電できているのは、僅か2割にとどまっています。制度設計の甘さに起因するもので、太陽光発電事業者に持ち込まれる話の多くが「ヨタ話」なのです。
番組の取材班が実際に訪れた九州のある場所は国が認定したものです。35万坪の土地に太陽光パネル20万枚余りを設置し、1日に最大4万9,000kWを発電できる能力があると書類には書かれていますが、土地の多くは日当たりの悪い北向きの斜面。農地以外への転用が厳しく制限されている土地も含まれていました。しかも土地所有者の一人が「初耳です、聞いたことない。何でここを選んだのか、それを聞きたい」と困惑しているのです。
なぜこんな土地に認定が下りたのか。実は今回の制度では、当初申請の際、事業者名や設備の概要などが書いてあれば、土地の所有者の許可はなくても認められる仕組みでした(チェックが入らないということ)。この計画に対し太陽光発電を手がける会社では、実現の見込みがないと判断し、買い取りを見送りました。
この会社には、これまでにおよそ500件の事業計画が持ち込まれていますが、そのほとんどが事業化できない案件ばかりだといいます。太陽光発電事業会社の社長「100件あって、1件まともなものが見つかればいいかなというのが、今までの経験です。どちらかというとゴミの山に近い」。一体、これは何事でしょう。
当初、書類が整っていれば認定が受けられた今回の制度では、新規参入を狙う業者が殺到しました。太陽光発電を手がける業者がつくった電力は、既存の電力会社が買い取る仕組みとなっています。太陽光の買い取り価格は42円。風力や地熱などに比べて2倍近く高く設定されていました。制度では、20年にわたってこの価格で買い取ることが保証されているため、初期の投資を差し引いても、巨額の利益を得ることができるのです。太陽光発電に関わっている業者は、申請もたやすく、大きな利益が見込めたといいます。
小生も頼まれて調べたことがありますので、ここまでは分かります。リスクが小さく、大きな収益が安定的に見込める、なんとおいしい市場かと。でもだからといってボロボロの土地で計画を出しても太陽光発電事業会社が買い取るとは思えません。お互いに時間の無駄に終わるだけのような気がします。一体、これは誰が何のためにこんなバカなことをしているのでしょう。番組では肝心の部分を突っ込んでくれませんでした。
ゲストに呼ばれた東京大学の松村敏弘教授も「このようなずさんな計画というのが、こんなに多数出てくるというのは考えていませんでした。この点では、やはり制度設計に問題があったということはあると思います」と指摘していましたが、やはり納得できる説明はできません。
「これの背景には、買い取り価格は確かに高い価格ではあるのですが、それが急速に下がってくるということが予想されていたために、一刻も早く枠を確保する誘因が働いてしまって、このようなことが起こってしまったのだと思います」とのことです。「事業者が事業を行わないで、認定の枠だけを取ろうとしていた?」との質問には、「はい、その可能性も否定できません」というだけです。そんな「だめもと」の事業計画書に大勢の人間が労力を掛けたことに、納得できるでしょうか。みんな、よほど他にすることがなかったのでしょうか。
番組の後半では、電力会社の都合で、電力が受け入れられない状況が起こる状況を説明していました。これは今回の買い取り制度が始まった直後から指摘されていたことです。法律では、電力会社は再生可能エネルギーの買い取りを拒んではならないと決められていますが、電気の円滑な供給の確保に支障が生じるおそれがある場合には、買い取りに限度を設けることができるとされています。これが抜け穴となって、電力会社に買い取りを拒まれるのです。特に風力発電や太陽光発電といった安定性に欠けるタイプの再生エネルギーの場合、このハードルは高いものです。現実問題として、電力会社としても不安定なエネルギーを受け入れるのは負担が大きい、というのはある程度正論です。
一方、再生可能エネルギーを普及させるうえで大きな障壁として指摘されたのが、送電網の問題です。何か。これまで送電網は、既存の電力会社が原発や火力発電所などから、消費地に電気を送るためにつくってきました。そのため、新たに風力発電に参入した会社が自分の電力を送ろうと思っても、基本的にはみずから設置しないかぎり送るすべがないのです。
日本有数の風力発電の拠点は青森県だとか北海道なのです。北海道北部で作った電力を、仮に大消費地の首都圏に送れれば、首都圏の電力需要のおよそ1割を賄えるとしています。でも北海道と本州を結ぶ北本連系と呼ばれる送電設備の容量は不十分で、さらに大規模に増強するには5,000億円かかると試算されています。ソフトバンクでは、国が主導して全国的な送電網を構築する枠組みを作ってほしいと考えています。しかしそれこそ無駄です。もっと消費地に近いところで生産できるタイプの再生エネルギーでないと意味がありません。
安定性と大消費地からの近さ。両方を解決できるのは、小生が何度も指摘するように、地熱発電と波力発電です(太陽光と風力を否定するわけではありませんが)。全国の大都会のすぐ足もとにエネルギー源は眠っているのです。目を覚まして欲しいものです。