近年、高速道路での逆走による重大事故が急増中です。通常のドライバーにとって想定外の事態であり、回避スペースが限られている上に、高速走行ゆえにとっさのことに対応し切れないため、その多くが正面衝突そして死傷者の発生という悲惨な結果を生んでいます。
高速道路会社6社は2011年~2013年の逆走事案を詳細に分析し、昨年9月にはその発生状況や箇所、特徴などを取りまとめています。逆走事案541件の約半数はインターチェンジやジャンクションで逆走開始。65歳以上の高齢者によるものが約7割。認知症の疑いや飲酒などの運転者によるものが約4割。約4割が夜間に発生といった特徴が分かったそうです。
高齢者による逆走が多いことに関しては、加齢による認知機能の低下が主な原因と推察されています。これまでにも高齢者ドライバーによる事故が急増しているため、高齢者向け安全運転講習の実施が進められてきました。しかしそれでは十分でないため、75歳以上の人が運転免許を更新する際に認知機能が低下した、認知症とみられる人について免許更新の要件が厳しくなるよう、制度が改正されようとしています。
これで認知症が疑われる高齢者ドライバーの母数が減れば高速道路の逆走も減るはずですが、今後75歳以上の人口がどんどん増える中でどれほどの即効性があるのかは疑問も残ります。
改正案では、「認知機能が低下」と判定された全員に医師の診断を義務づけることになりましたが、たまたま更新時には認知症の症状を示していなくとも、ほんの数カ月で認知症が発症・進行することは現実に起こります。3年に一回の更新時だけでは認知症ドライバーを見つけ出すには十分ではないでしょう。
本来は家族など周囲の人が日常的に注意して、認知症気味ではないかと思えたら即座に医師の診察を受けさせ、認知症だと診察されたら免許を返納させるべきです。でも地方ではクルマなしに生活が成り立たない実態があり、周りも免許を取り上げることにつながる行為をためらうでしょう。
一方、高速道路会社6社の逆走対策は(そうした認知症ドライバーの抑制は自らは無理なので)、「矢印路面標示や注意喚起看板の視認性の向上(大型化、高輝度化)」、「合流部におけるUターン防止対策の強化(ラバーポールの新設、延伸)」を統一的に実施することだそうです。
実は健常者でも勘違いして、出口から侵入したりする事例は時折あるそうです。こうした高速道路側の紛らわしい構造を修正することや、万一逆方向を進んだ場合にその間違いに気づきやすくすることは、今までやってこなかったことがおかしいくらい喫緊の対策です。
ただしこの対策の効果にも限界があり、認知機能が低下した人にはこうした対策が通用しない恐れがあります。つまり「自分は正しい方向に進んでいる」と思い込んでいる高齢の認知症ドライバーには、侵入禁止マークや逆走を示す標識そのものが自分に向かって発信されているメッセージとは認識できない可能性が高いからです。
ただでさえ人間は高齢になると頑固になり、「周りが間違っていて、自分のほうが正しい」と考える傾向が強くなります。ましてや認知機能が低下した状態では、そうした標識に十分な注意を払っていないと考えざるを得ません。ラバーポールが延長されて設置されていても、「なんだ邪魔な置き方をしおって!」などと怒るだけで、結局中央線をまたいでしまい、逆走するかも知れません。もちろん、対策しないよりはずっとましではありますが。
では本質的にはどういった対策が求められるのでしょうか。小生は大胆かつ効果的な方策として「逆走警告システム」を提言します。
国土交通省が主導して、高速道路各社にクルマの逆走を感知できるセンサー付きのビーコンを出口付近など逆走の発生しやすい箇所に設置させます。そしてカーナビメーカーには、そのビーコンの情報を取得してドライバーに大音量で警告を放つ音声付きカーナビ(の付加機能)を開発してもらうのです。
ITS(高度交通情報システム)でもあり、一種のM2M(物対物)システムでもあります。日本の高速道路には実に多様なITS機器・システムが設置されていますが、その多くは必ずしもドライバーにとって大したメリットにはなっていません。それらに比べ、この「逆走警告システム」であれば安全対策として費用対効果はかなり高いといえるでしょう(誰も逆走車には出遭いたくないでしょうから)。そしてこの警告機能が付いたカーナビであれば、高齢者ドライバーがいる家族ならこぞって装備するでしょう。いかがでしょうか?