4月9日(水)の「クローズアップ現代」は「日本の技術はどこへ ~拡がる“軍事”転用~」でした。日本の高度な民間技術が軍需的観点から秋波を送られ、知らない間に転用される恐れが現実化しつつある様子が報告されていました。
韓国で相次いで見つかった北朝鮮のものと見られる無人機に取り付けられていたのが日本製のカメラだったことで注目されました。そう、今、日本の技術を軍事利用しようとする動きが加速しているのです。
シンガポールで開かれたアジア最大規模の航空ショー。旅客機メーカーや海外の民間空港への納品を目指し、日本からはこれまでで最多の42社が出展しました。それら日本企業のブースには各国の軍関係者が殺到しました。ロシア海軍、アメリカの軍需研究機関、イギリスを拠点とする世界第3位の軍需企業であるBAEシステムズ、イスラエルの軍需企業であるエルビットシステムズなどです。しかし当の日本企業は戸惑いを隠せず、海外の軍との取引には慎重な姿勢です。
兵器の高度化が進む中で今、民間の技術を軍事に転用する動きが広がっています。しかし知らぬ間に転用されてしまえば、企業イメージとして取り返しがつきません。どのように軍事転用を防ぐのか、模索を続けている企業が紹介されていました。
コンピューター制御で自律航行する無人ボートを開発した、社員50人の都内のメーカー、コデンです。海底の地形を超音波で調べ、データを無線で送信する機能を備えており、港やダムなどの測量に使われています。無線が途切れたり、電池が残り少なくなったりすれば、元の場所まで自動で戻ってきます。これは「敵地偵察・測量」にもってこいです。この会社には、ここ数年、イスラエル、リビア、イランなどからの問い合わせが増えています。用途や素性を明らかにしないことも少なくなく、コデンでは警戒しています。
同社では、3年前から転用を防ぐ独自の取り組みを始めました。海外に輸出する際には毎回、社員を現地に派遣し、本当に測量に使われているのかを確認しています。さらにメンテナンスで年に一度、製品を回収し、勝手に改造されていないかチェックを徹底しています。それでも軍事転用への不安が消えることはないと言います。ここまできちんとやる会社はむしろ例外でしょう。
明らかに武器に当たる製品については、(旧)武器輸出三原則で実質的に輸出が禁止されてきましたし、新しい三原則でも厳格にこれを管理するとしています。また民生品の中でも、核や生物・化学兵器、ミサイルなどに転用が可能な特殊な技術については、条約や国際的な取り決めの下で管理されています。ところが、武器に転用可能だと言い切れない民生品については、管理の対象外になっています。
かつての大きなパソコンの機能が、今では小さいスマートフォンで代用できるなど民間の技術はすさまじいスピードで進歩していて、民間技術が軍事転用されるのは防ぎようがないと指摘する専門家もいます。
NHKが入手した防衛省の内部資料には、民間技術を防衛装備品に活用するため、防衛省が、企業や大学の技術を調査した(2013年)実態が記されていました。自衛隊の防衛装備に転用できないか見極めようとしていたのです。
たとえば防衛省がセンサー技術の高さに着目したのが、味や匂いを科学的に調べる研究の第一人者、九州大学の都甲潔さんです。金属の表面に特殊な処理を施した超高感度の匂いセンサーで、食品の品質管理に応用できる世界最高水準の技術です。匂いセンサーを、爆弾を探知する装置に転用できないか、共同研究を申し込まれたのです。爆弾を探知できれば人命を守ることにつながると説明され、その後、防衛省の依頼を引き受け、爆薬の僅かな成分を匂いセンサーで捉える新たな装備品の共同研究を始めています。
他の例は、爆弾処理のために試作されたロボット。カメラはテレビ会議用の市販品、ロボットの動きはゲーム用コントローラーで制御です。もう一つは手投げ式偵察用ロボット。こちらも電子部品はほとんどが市販品。相手に気付かれないよう、ひそかに捜索するための技術。操縦には、スマートフォンを応用した端末が使われていました。これは犯罪捜査でも使えると思いました。
民間の優れた技術を積極的に取り込む防衛省は、一方で開発した装備や技術を輸出することも想定しています。これまで武器の輸出は実質的に禁止されてきましたが、新たな三原則では一定の条件の下に認められることになったからです。
防衛省がASEANの国防次官級会議に合わせて開いた展示会の様子が放映されていましたが、今後はこうした機会を通じて民間技術を使った装備品を海外にPRすることにしています。出来上がった装備品を海外市場に拡げることに協力することで、調達コストを低減していく意図でしょう。
防衛省は輸出を視野に入れる一方で、優れた民間技術が海外に流出しないよう、今4月から対策に乗り出しました。軍事に転用可能な民間技術を詳しく把握、転用されるおそれがある技術については輸出審査を慎重に進めるよう関係機関に働きかけることにしています。ある意味身勝手な話ではありますが、国益という観点からはこうした制約も仕方ないのかと思います。
今後は海外で生産される装備品の開発に日本企業が参加するケースも出そうですし(あくまで日本政府のコントロール下ですが)、日本が一緒に開発した装備品や輸出した製品が輸出先から第三国に移転してしまう可能性は小さくはありません。国にはもちろん政治的判断に対する責任と説明責任がありますが、(たとえ政府に促されようと)企業もまた特定の自社技術を輸出する(ことで第三国に転用されるリスクを負う)のか否かを決定する自己責任があることを肝に銘じるべきです。