自動車の未来は家電と同じか

ビジネスモデル

日本の自動車産業が韓国勢の攻勢に押され気味になっている状況がここ数年続いている。特に現代自動車の品質・デザイン面の躍進振りは凄いものがある。日本市場はともかく、欧米市場と一部の新興国では着々とシェアを伸ばしている。その後ろには中国勢が控えている。

そうした状況が多くの人に、サムソン電子とLG電子に押されまくってしまった上に巨額赤字を計上し、リストラ旋風が吹き荒れている家電業界を思い起こさせるようだ。ソニー・パナソニック・シャープの家電御三家が揃って討ち死にした様相だった前回決算時のショックは確かに凄まじかった。巨大な国内市場に支えられて中国勢が次に控えている状況も似ている。抜群に安い価格で中国市場を席巻しただけじゃなく、多くの新興国で両者がシェアを大きく伸ばしている。

産業のすそ野が広いし貿易黒字の多くを稼いでくれている自動車産業までが同様の事態に陥ってしまえば、日本の産業基盤や経済への痛手は計り知れないため、不安におののく人が多いのである(雑誌メディアはこういう不安に付け込んだ記事を書くことで売り上げを伸ばす側面がある)。そうした「憶測」記事または識者の意見のベースにあるのは、「日本の家電産業は『軽薄短小』技術で進んでいたというが、モジュール化が進んでしまった。自動車もその方向に進んでいる。先端技術による部品と熟練技術を反映した精密成形・加工機械を買い込んで組み立てれば、誰にでも作れる」というものだ。

結論からいうと、これは大きな勘違いである。自動車産業と家電産業は根本的に違う。確かに形を真似することはできるし、そのデザインを洗練させることもデザイナーに金を掛ければ可能だ。しかし公道を走るクルマに強く求められるのは安全性である。これが家電との決定的違いである。小生は10年近く前から自動車会社や自動車部品会社をクライアントに持つが、彼らの苦労の多くが非常に高いレベルで統合される、安全性の追求にあることを知っている。家電では求められない、シミュレータ上と実道路における走行データ等の、気の遠くなるほど膨大な蓄積が競争の前提にある。

もちろん現代自動車には20年以上前の米国市場への挑戦以来続けてきた安全データ・知識・ノウハウに関する蓄積があり、既に日本勢のライバルといえる存在になっている。しかしこの側面は、中国勢が10年掛っても追いつけないものだ。日本の自動車と家電の2つの産業は、今後全く違う歩みを見せるだろう。