日本でも選挙戦真っ最中です。この暑い最中に、各地の駅前や繁華街前で政治家(候補者、応援弁士)が声を枯らして投票を訴え、住居近くの道路で選挙カーが候補者の名前を連呼しています。数十年と変わらない光景を今回も見ていますが、さすがに暑さのレベルが違うせいか、戸外での街頭演説の時間はかなり短くなっているようです(昔は2時間とかざらにありました)。
その政策トピックは、物価高への対処とその原因(の一つ)であるウクライナ侵攻から発想される安全保障(と関連しての防衛費増額)、そして景気対策とコロナ対策に戻る、というパターンが王道のようです(「NHK党」だけは違うと思いますが、聞いたこともないし真面目に読んだこともないので、知りません)。
でも、中間選挙をこの秋に控えてかなりテンションが上がっている米国の選挙イシューは相当ユニークです(一時米国に住んでいたことと、米国に関係が深い友人が多いことで、色々と教えてもらっています)。もちろん、物価高と景気という生活に直結する話題が一番関心が高いことは共通しますが、それ以外が全く違うのです。
それは一種の「米国政治の三題噺」とも云えるもので、「移民、中絶、銃規制」です。この関心の順番は人や地域によって違いますが、州の(知事・議会)選挙でも連邦レベルの(上院、下院)選挙でも大体共通して取り上げられることが多いものです(今回は直前に銃乱射事件が続いたので銃規制がかなり注目されていますが、それ以外の状況だと人種差別やテロ対策と入れ替わったりもします。お気づきのように「外交」は出てきません)。
移民政策とはさすがに「移民の国」ならではで、具体的にはメキシコ国境からの不法移民への対策の話です。覚えておいででしょうか、トランプ政権が国境に大きな「壁」(現代の「万里の長城」と呼ばれました)をかなり大々的に作ったのですが、実際には途中に抜け穴があったり、建設が中断した部分が途切れていたりして、実質的に「ざる」になっています(そんなものに巨額の国家予算を使った訳です)。
トランプ政権では国境警備隊による不法移民の取り締まりがきつくて、捕まって本国に送り返される(しかもその過程で家族が引き離される)確率が高いことが不法移民側にも知られて、一時は総数がかなり減ったそうです。しかしバイデン政権が寛容な移民政策をとるという評判が周辺国(特にニカラグアとメキシコ)で高まり、不法移民の数が急増したのです。米国民の中でもこの「不法移民への対処」に関する態度はかなり違いが大きく、押しなべて共和党支持者が厳しく、民主党支持者は寛容といった傾向があります。
2つめの「中絶」イシューも日本人には馴染みもなく、なかなか理解し難いものです。米国では州によって「中絶を絶対に認めない」ところが結構あり、中絶手術を受けた側も実施した側(医療者)も罪に問われます。実は私が済んでいたテキサスはその最も厳しい州のひとつに比較的最近なり、レイプ被害による妊娠でさえ一定の妊娠期間を過ぎると中絶が許されません。州によっては、中絶手術を看板に書いてあるだけで医院が放火にあったり院長が銃殺されたりする事件が時折起きます。
ではどうするのか?中絶が許されている州に行って中絶手術を受けるのです。その費用負担に耐えられない貧しい人たち(往々にして黒人やヒスパニック系で、レイプが頻発するような悪い住環境であることが多い)は罪を覚悟で「闇中絶」するか、生みたくもないのにそのまま子供を生んで生育拒否(ニグレクト)につながるという悲劇が頻発しています。
この「中絶」に対する有権者の態度は宗教的信条等によってかなり違ってきます。保守的な福音派などは絶対反対ですが、プロテスタント系や女性の権利に敏感なインテリ層だと寛容なようです。そして共和党支持者は前者、民主党支持者は後者に多いのです。
3つめの「銃規制」もとっくに「刀狩り」を済ませた日本人には馴染みもなく、理解し難いものです。規制反対派は「憲法に許された国民の権利を微塵も侵すな」と声高に主張し、規制強化派は「危ない奴らに銃を売るな、大量殺りくができるようなマシンガンなどの銃は売るな」という主張です。日本人からすれば後者でまとまらないのが不思議ですよね。
でも後者人のたちも「銃を売るな」とまでは言っていませんし、現実的に銃規制が話題になると「規制される前に」という駆け込み需要が高まって、かえって銃販売店(小さな町でも1軒は存在)の売上は上がるのですから、皮肉なものです。
これも規制反対派は共和党支持者に多く、規制強化派は民主党支持者に多いという具合に、きれいに意見が分かれる選挙になっています。要は、前者が保守派、後者がリベラル派と色分けされている訳です(政策ごとに出発点が違うので、規制を強化するのか、緩和するのかは入れ替わります)。
そしてどの地域にも1/4~1/3の「無党派」(またはスイング投票の人たち)がおり、選挙でどちらの党が勝つかは結局、その人たちの「風」次第というのは日本と似ていますね。