9月26日(木)に放送された「クローズアップ現代」は「ロボット兵器が戦争を変える」。将来の姿を考えると、背筋がぞっとなる衝撃があった。
兵士の命を危険にさらさず、遠隔操作で戦場の任務を遂行する無人機。これまでアメリカやイスラエルが積極的に開発を進めてきたが、最近は中国も無人機を開発。今月には尖閣諸島付近の上空に現れるなど、無人機の運用が世界的に広がっている。戦争を仕掛ける側にとっては、「自国の若者を戦地に送るな」という戦争反対論へ絶好の反論ができる。
無人機が本格的に戦場に登場したのは、アメリカのテロとの戦いがきっかけだった。テロリストが潜伏しているとされる地域の上空を飛行し、ミサイルで攻撃する。地上部隊を送り込むことが困難な地域でも、無人機なら攻撃ができる。
戦場からはるか1万キロ以上離れた米国本土の基地で操作が行われ、衛星通信で無人機に対し指示を出す。「兵士」たちは、モニター画面越しに遠隔操作するだけだ。確かに彼らの命が危険にさらされることはない。元アメリカ空軍中将、デビッド・デブトゥラ氏は、無人機なしの作戦は今や考えられないという。「無人機ならば標的を何時間もかけて偵察でき、攻撃の直前まで監視できます。無人機を使えばさまざまな場面で大きな利点が得られるのです」と。
アメリカ空軍で無人機を操縦していた、ブランドン・ブライアント氏。2006年から5年間、アメリカ本土で生活しながら基地に出勤し、アフガニスタンなどでの攻撃に従事していたという。「奇妙な生活でした。12時間、いわば戦場にいて、そのあと街に出て、ハンバーガーを食べたり恋人に会ったり、パーティーに行ったりするんですから」と。
しかし一方で、パキスタンなどではアメリカの無人機による攻撃で市民の犠牲が相次いでいる。国連の調査では、パキスタンだけで2004年以降、少なくとも400人以上の一般民間人が犠牲になったとしている。パキスタンでは怒りの声が高まっている。アメリカ軍人を1人危険にさらさないために他国人を数百人間違って殺しても構わないと考えるなら、米国のおごり以外の何物でもない。
無人機の操縦に携わっていたブライアント氏には、今も脳裏から離れない任務があるという。ある日、3人の標的が建物に入ったのを確認してミサイルを発射。直後、建物に向かって走る小さな人影が見えた。「上官からは犬だと言われました。胸がむかむかして、気分が悪くなりました。(中略)犬だなんて、嘘だったんです」。その後、軍を除隊したブライアント氏は、上官から「5年間の任務で殺した人の数は1,600人を超えた」と告げられた。
ブランドン・ブライアント氏のコメントがある。「無人機の操縦者はすべてを目撃しますが、爆発音を聞くこともなく、興奮することもありません。聞こえるのはコンピューターの音と、同僚の息遣いだけです。無人機での攻撃を繰り返すうち、私は無感覚になっていました」。はるか上空のエノラ・ゲイ(B29)からヒロシマにリトルボーイを落下させた搭乗員たちに未曾有の戦争犯罪を行っている意識はなかった。それは自分のやった殺戮の場面をその目で見ることがなかったからだ。無人兵器は同じことを世界規模で行えるようになることを意味する。
各国の軍事関係者は今、人による遠隔操作を必要としない「自律型」のロボット兵器開発に力を入れている。近い将来、攻撃の判断すら自動化された「殺人ロボット」が誕生し、殺戮のハードルが一層低くなることで、人命が無秩序に奪われるという懸念が高まっている。
こうした動きが進むのは、米国のような先進国かつ兵器大国が、途上国でのゲリラ戦やテロ軍団に対し長年、決定的な手段を持たなかった鬱憤を晴らすことができると確信しているからだ。ロボット兵器は戦争の姿を恐ろしい方向に確実に変えようとしている。