米予備選は恐怖に近づき、日本の期待とは違ってくる

グローバル

昨日から今日にかけて、米国の大統領選挙予備選のスーパー・チューズディの結果が報じられている。共和党では扇動家&不動産王のドナルド・トランプ、民主党ではヒラリー・クリントンが独走態勢に近づいた日だった。

日本の報道の見方は幾つかの点で偏っているし、日本人記者の理解が及ばない点や日本の読者・視聴者が興味のない点については極端に欠落している傾向が強い。小生は昔からMSNBCなどの米政治番組をpodcastで視聴するのが好きなので、そうした落差を楽しんでいる。

今回のトランプ氏の独走ぶりは米国内でも相当意外だったようだが、スーパー・チューズディの前週にニュージャージー州知事だったChris Christyがエンドースしたことでレースの趣が変わっている。つまりそれまで「いつトランプの勢いが落ちるのか」「誰が止めるのか」という具合に見ていた大多数のマスコミが、「もしかすると保守本流はもう間に合わないのでは」「保守本流の連中も勝ち馬に乗ろうとしている」というふうに見方を変えてきていたのだ。

つまり、トランプ支持の流れは当初の冗談からブルーカラーの反乱に膨れ上がったばかりか、今や没落したミドルクラスや首になった元ホワイトカラー連中までが「世直しにはトランプのような破天荒な人間が必要だ」と考え始めた、イスタブリッシュの連中でさえ「おこぼれをもらうにはそろそろ鞍替えしないと」と迷っているようだ、ということだ。

小生は、毎回そうであるように共和党は「保守本流のタフガイ」に落ち着くだろうと思っていたので、マルコ・ルビオに保守本流が一本化された時点で大きく流れが転換すると考えていたが、このスーパー・チューズディでルビオ候補が獲得できたのはわずか1州。これでは保守の期待を統合するには至らず、このままトランプが勢いを保つ可能性のほうが高くなってきた。

一方、民主党の予備選はどうやら先が見えてきた。白人の若者が熱狂的に指示しているバーニー・サンダースへの支持はそれ以外の層には広がらず、大人たちにとって安心できるヒラリーに落ち着きそうだ。私用メールの使用に関しての証言がブレたことで支持率は落ちたとはいえ、やはり有色人種層や中高年の女性層(彼ら彼女たちは投票率が高い!)からの手堅い支持を固めているヒラリーは強いということだ。

この情勢に何となく日本国民は「高みの見物」気分だ。何となれば「最悪、訳の分からない人物であるトランプが共和党候補としてノミネートされても、ヒラリーが最終的には勝つ、つまり日米関係はそう変わらないはずだ」という読みだろう。

確かにこの2者が対決した場合の予想はヒラリーが有利とされている。しかしここまでトランプに関して予報を外しまくっている米国マスコミの予想などはこの期に及んでは全く当てにならないと考えたほうがよい。勢いに任せてトランプが予備選のみならず11月の本選まで制する可能性は高まっていると言わざるを得ない。怖い話だが。

それにそもそもなぜ日本人と日本のマスコミの多くが「ヒラリー大統領だったら安心だ」と考えるのか。ここには大した根拠はないだろう。オバマ大統領もいい加減な政策と議会への向き合い方だったが、ヒラリーだって共和党優位の議会を動かせる技量を持っている証明はされたことがないのだ。その結果、オバマと同じく「動かない米政治」がまた4年間延長されるのかも知れないのだ。

それに日本人が最も期待する外交政策については、民主党政権は伝統的に根拠なしの中国寄りなのだということを、あまりに多くの日本人・日本マスメディアは知らない。つまり大していいことは期待できないのだ。たまたま今は中国がオバマ政権のレームダック振りに調子に乗って強硬策を繰り返してきたため、国防省などが中心となって日米同盟を強化しなければいけないと強い主張を繰り返してきたため、振り子が少し日本寄りになっているだけだ。

もしヒラリー政権が成立したら、相変わらず「歴史の長い中国のほうが尊敬すべき対象だ」という不可思議な民主党の日和見政策が復活する可能性は高いのだ。これはヒラリー個人の問題というより、民主党の性格・思想なのだから始末が悪い。

それよりは強面で「米国に対抗しようとする意図を露出している中国は徹底的に叩く、そのために日本と仲良くすべきだ」という単純明快・二元論的な、共和党の考えのほうが日本にとっては都合がよい。この大きな世界戦略の下では日本を叩こうとはならず、中国包囲網をいかに形成するかに腐心するからだ。そしてその政策を押し進めてくれるのは今残っている3候補のうち、マルコ・ルビオしかいない。彼は明確な日本寄り、中国警戒派だ。

一方、トランプは日本も中国も区別がついておらず、対外排除的な発想が強い。非常に危険な政治家だ。テッド・クルーズはそこまで極端ではないが、世界戦略自体が薄いのはトランプと同様で、外交政策はどう転ぶか不透明だ。彼が共和党候補となる可能性は低いため、あまり心配する必要はないが、トランプは十分過ぎるほど可能性が高いことは今では明白だ。事態は風雲急を告げている。