政権抗争の生々しさを、最近の米中日の3国で続けて見た。いずれも既存権力者が放った「乾坤一擲」として。
最初は米大統領選におけるロムニー候補との公開討論会でのオバマ大統領である。第1回目でお上品に振る舞い過ぎてロムニー候補に大きくリードを許したオバマ氏は、入念な準備をもって第2回目と第3回目においてロムニー氏の政策矛盾や曖昧さをあからさまに攻撃する方針に大転換した。時にはロムニー氏の説明を遮って一方的に主張(または糾弾)するといった、「まるで挑戦者のよう」とまで批評されたスタイルであった。政権維持への執念を見る思いであった。これが功を奏し、しかも土壇場でのハリケーン災害での陣頭指揮という幸運を呼び込み、最後は地滑り的な勝利を収めた。
ミドル層の再興を図るオバマ民主党政権のほうが、米国社会にとって正しい方向へと是正するのだろうが、短期的には大統領・上院は民主党、下院は共和党という権力の「ねじれ」が続くため、「財政の崖」危機が象徴するように米国の意思決定構造が機能しない状態が続くのではと危惧される。特に米共和党のベイナー下院議長に党内をまとめる力量がないことが、オバマ大統領にとっては大きな阻害要因となり続けるのではないか。
2つ目は中国共産党大会における胡錦濤(フー・チンタオ)総書記の完全引退である。江沢民の「院政」の前例を否定すべく、自ら政治局常務委から外れるばかりか即座に軍事委主席も退くというカードを切ったといわれる。江沢民・前総書記のこれ以上の影響力を排するため、いわば身を捨てての「刺し違え」である。
この動きは周近平氏にフリーハンドを与える代わりに、一方では自らが周近平政権の後ろ盾となることすら拒否したものである。政治局常務委には江沢民派といわれるメンバーが多数派を占めるので、本当に江沢民氏の影響力を排することができるのかは不明である。とはいえ、胡氏は政権にあったときの功績としては大したものがないが、もし本当に権力の二重構造が解消されるなら、これが胡氏の最大功績かも知れない。
そして最後に我らが泥鰌首相・野田氏の、国会での党首討論における「奇襲解散」発言である。ずっと自民党から「嘘つき」呼ばわりされてきたことに業を煮やしたのか、衆議員総定数の大幅削減の言質を安倍氏に要求し「やりましょうよ。約束してくれるなら16日に衆議院を解散する」と明言したやり取りである。
明らかに虚を突かれた安倍氏はその場で明快な返答をできず、ピント外れの反応を繰り返した。明らかに両者の覚悟の度合いには大きな差があった。あれで民主・自民の支持率の差が少し縮まるのは間違いない。混乱する党内の動きに足を取られてずるずると解散時機を失ってしまう(先延ばししているうちに何かの拍子に内閣不信任案が提出・可決されれば、なすところなく民主は惨敗するだろう)より、少しでも主導権を取り戻して解散したいという野田首相のほうが政局センスがあるように見受けた。