(以下、コラム記事を転載しています) ****************************************************************************
国の無策の象徴である「空き家問題」。ここまで深刻化するまで国は何をしていたのか、そして今何をしようとしているのか、さらに「何をしようとしていない」のか。もう一度よく考えてみたい。
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総務省の2018年版『住宅・土地統計調査』によれば、全国で空き家は849万戸にまで増えており、住宅の総数に占める割合は13.6%にまでなっている。
野村総研の予測では、空き家の除去や住宅用途以外への有効活用が進まない場合、2033年には、総住宅数約7,100万戸に対し空き家数は約2,150万戸、空き家率は何と30.2%に上昇するとされている。
この空き家率の急増見込みには根拠がある。それは2025年以降、持家率の高い団塊の世代が75歳以上の後期高齢者に突入するからだ。いわゆる「2025年問題」の一つなのだ。
彼らの持ち家は地方や郊外の多少不便なところにあるケースも多く、そうなると子や孫が引き継いで住んでくれないのだ。しかも家屋自体の(断熱・気密・耐震などの)性能も低い上にメンテナンスも悪く、貸家にしても借り手がつきにくいケースが多い。
その結果、上記資料での「総住戸数、空き家数および空き家率の実績と予測結果」のグラフを見たら分かる通り、増加ペースのカーブが2018年以降は急に傾斜がきつくなる、つまり急激に悪化することが予測されているのだ。
これはかなり深刻な状況で、近隣の生活環境が明らかに悪くなる。近所に崩壊した空き家が増えてくれば駅前シャッター通りと同じく、雰囲気も悪くなる。でもそれ以上に実害が出てくる。
物理的に建物が腐ったり、ごみが投げ捨てられたり、中で動物の死骸が腐ったりして、悪臭が漂う。そしていたずらで建物がさらに壊されたり放火されたり、中で犯罪が行われたりする可能性すらある。その結果、周辺地価には引き下げ圧力が掛かる。近隣住民としては迷惑この上ない。空き家を放置することは明らかに公共のデメリットなのだ。
もちろん対策は簡単ではない。空き家を減らすための地域での取り組みが各地で試みられているが、容易には進んでいないのが実情だ。①そもそも空き家の利用者が、特に地方では少子高齢化でどんどん減ってしまっていることが最大の障害である。
しかしそれを除いても大きな典型的障害があと2つある。②空き家を取り壊してしまうと固定資産税の優遇措置が解除されてしまう(ため相続者が空き家を取り壊して更地にするインセンティブがない)ことが一つ。③土地の処置・再利用に関し所有者もしくは共同名義人の全てから賛同をなかなか得られない(典型的には所有者が認知症になった、または身寄りのはっきりしないまま所有者本人が死亡、もしくは共同名義人となっている兄弟・親族の一部が反対か行方不明、等々)ことがもう一つだ。
ではこうした状況に歯止めを掛ける措置は執られているのだろうか。従来はほとんどNOだった。でもさすがに近年、何とかしなきゃという切迫感の下、国レベルでも限定的かつ小出しだが対策が出始めている。
2015年には空き家対策特別措置法が施行され、危険な状態にある空き家は、自治体が略式代執行できるようになった。相続放棄された物件については自治体が「相続財産管理人」などの仕組みを使って売却することもできるようになってきた。
でも実際にそうした措置が執られるのは都市部のごく一部に過ぎない。地方の資産価値のない物件は税金で措置しても大した額で売れないので「足が出てしまう」からだ。現実には首都圏でさえ対策は遅れ気味だ。実は、空き家が全国最多なのは地価が高いはずの東京都世田谷区で、何と5万戸もあるそうだ。
並行して、先の障害③の問題を減らすべく、2024年4月からは「相続不動産の登記」の義務化が施行される。法改正以前に所有している相続登記・住所等の変更登記が済んでいない不動産についても義務化される。
誰が相続したのかを誰でも把握できるようになることで、危険な状態にある空き家を何とかせよと所有者に働き掛けたい自治体はもとより、その空き家または土地を活用できると考える個人・法人等が所有者にコンタクトできる可能性は高まるだろう。
しかし相続不動産に限ることがボトルネックになろう。親族のはっきりしない高齢者が認知症になって高齢者施設に入ってしまえば、その所有空き家の正当な相続人は掴めないまま、誰も住まない空き家は放置されてしまう。こうした格好で放置される空き家はまだまだ増加すると見込まれているのだ。
国も遅ればせながら追加の検討を始めてはいる。まずは先の障害②(固定資産税の優遇措置解除によるディスインセンティブ)を主要因として放置空き家が発生する状況を減らすべく、管理状態が悪い空き家の修繕・建て替えを促すため、固定資産税優遇措置の見直しを検討し始めたそうだ。
現在、住宅用地は固定資産税の特例措置として、課税標準が200平米以下の場合は1/6、それを超えると1/3に軽減される。それに対し倒壊する危険や衛生面で有害となる恐れのある「特定空き家」については空き家対策特別措置法で対象外とする規定を設けている。
政府は今回、「特定空き家」の予備軍である「管理不全の空き家」も優遇対象から外す見込みだ。対象としては全国で約23万5千戸あると言われている。実質的な増税をすることで、早い段階で手入れすることを所有者に促し、危険な「特定空き家」にまで悪化することを予防したいということだ。この方向は間違っていない。むしろ遅すぎるくらいだ。
そしてもう一歩、踏み込むべきだ。「管理されない空き家」が増える原因の一つを失くすためにも、先に触れた「相続不動産の登記」の義務化に加え、国民個人および法人全てに対し、今所有している不動産の登記の全面義務化を早急に実施すべきだ。
そしてさらに踏み込むべきは、住宅用地での固定資産税の特例措置自体を縮小すべきだと考える。
今、日本は財政危機のさなかにありながら、防衛費を倍増し、子育て支援を格段に拡充しようとしている(後者には大いに賛成したい)。その財源として消費税や所得税の増税などが取り沙汰されているが、それは経済へのダメージが大き過ぎるため、非常に筋の悪い打ち手だ。
むしろこの際、現存する非合理的な税金のアンバランスを思い切って是正すべきで、その一つとして固定資産税を大幅に増額すべきと提案したい。具体的には、公示地価の70%程度と安く設定されている固定資産税評価額を公示地価に近付けること(併せて相続税の路線価も同様だ)、そして固定資産税の特例である住宅用地に対する軽減措置を思い切って半減程度にまで縮小すべきだ。
使われないまま放置されている既存の土地の高度な有効利用を促すことに加え、そうした「放置されている土地を放出させ、有効利用に意欲のある別の個人・法人に再利用させる」方向に政策を切り替えるべきなのだ。
同時に、自治体が自らの費用で略式代執行した土地を割安に市民または法人・団体に売却し土地の再利用を促すよう、国から自治体に交付金を出すのも有効だろう。その際には、隣地の所有者には優先的にかつ少々割安な価格での買い取りを打診する配慮があっていい。区画拡大に仕向けることで地域の宅地環境の改善にもなるし、何と言ってもそれまで放置空き家によって散々迷惑を被ってきた隣人に対して少しは被害補償の機会が与えられてしかるべきだろう。
利用されないどころか地域の足を引っ張る存在である、管理されない空き家をこれ以上放置させては、ただでさえ体力の衰えた日本経済にとっては大きな足かせになりかねない。先送りではなく、今こそ総合的かつ有効な手を打つべきなのだ。