痛みを伴う決断に踏み切るための条件とは

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GWの間、時間を見つけて過去の記事切り抜きを幾つか読み返しています。例えば日経ビジネスの毎号の終盤にある「異説異論」や「賢人の警鐘」など、すぐに仕事に役立つとは限らないけど「おおっ、そうだな」と思う指摘が幾つも見つかります。

特に小生が尊敬し、いつも「なるほど」と思わせられるのがコマツの坂根相談役と富士フィルムの古森CEOで、両者ともご自分が事業再編と再構築を果たされた実績があって説得力が違います。

坂根氏は今年の2月10日号で次のように指摘されています。「日本企業は『負け組』事業を何とか強くしようと考える傾向がある。長い目で見ればそれは誤りで、弱い事業は切って強い方に経営資源を回すべき。それには景気がよくなり始めた今が絶好のタイミング。弱い事業であっても買い手が見つけられるから」と。

全くその通りで、長年企業戦略構築と絡めてM&Aサポートもしてきましたが、往々にして景気が良くなり始めると、弱い事業も息を吹き返して延命策が実を結ぶ感覚になりやすいのです。でも本当は、このタイミングでこそ弱い事業を本業にしている『勝ち組』企業に事業譲渡すべきなのです。

それが結果として事業に携わる人たちを『勝ち組』の一員にさせることで幸せにし、会社全体と社会全体の資源配分を最適化し、不毛な消耗戦から抜け出させることで日本企業全体の利益率をまともな水準に挙げることにつながります。そうした先を見た経営者の決断が、結局は適正な賃金アップにつながり、経済と社会の好循環につながります。

同氏は4月7日号で次のことも指摘されています。「企業では経営者が決断すれば構造改革に踏み切れるが、常に有権者の目を意識しなければならない政治は、地方からのボトムアップの力が必要。ボトムアップを促すのに最も有効なのが『見える化』である」と。例えば膨らむ一方の社会保障費の年間総額と一般会計年間予算を各自治体に『見える化』させるべき、そのため国は必要なデータを提供すべき(なぜなら自治体だけでは社会保障費総額を把握できないから)、と説きます。

こうしたデータに基づく本質的な指摘をすれば、犠牲を伴う決断でも現場はついてくる、比較されるようになると次々と自らアイディアを出してくる、というのがコマツでの(一度きりの約束で踏み切った)「構造改革」(リストラ)経験だと述べられています。このアプローチは、まさに小生などが経営コンサルティングをさせていただくときのものと同じです。人間に犠牲を伴う決断と実行を迫るための本質的アプローチは、企業経営でも自治体経営でも同じだと思います。