異端児が変える、ニッポンの家電

ビジネスモデル

かつて世界を席巻していた日本の家電メーカー。しかし、韓国(Samsung, LG電子)や中国メーカー(Hierなど)の台頭(この裏には知財の詐取など様々な謀略もある)、また欧米メーカー(Philips, Apple, Dysonなど)の巻き返しもあって、近年は苦しい状況に置かれている。

日本の家電メーカーの衰退には、必要以上に高機能化に注力し過ぎたことや、各社が同じような商品を販売してコモディティ化したという自らの失敗要因も大きい。そんな中、いま日本で斬新な商品を生み出す家電メーカーが登場している。3月8日放送の「ガイアの夜明け」はその型破りの商品開発プロセスを追い、日本発のモノづくりに期待を抱かせてくれた。

一人目は実は日本メーカーではなく、正確には中国系メーカー。経営破綻した三洋電機から洗濯機と冷蔵庫事業を引き継いだアクア(元ハイアールアジアから改称)だ。アクアを率いるのが伊藤嘉明さん。デル、レノボ、アディダス・ジャパン、ソニー・ピクチャーズ・エンターテインメントなど、名だたる企業で要職を歴任後、初めて家電業界へと足を踏み入れた男だ。

伊藤さんは2014年にCEOに就任以来、家電業界において新参者だからこそ、革命を起こせるという意識の下、「閉塞感のある家電業界で、既成概念にとらわれないモノ作りをしよう」と社員に意識改革を促してきた。多くのニッポンの家電メーカーがコモディティの谷に陥り技術も成熟する中、斬新なモノを作らなければ存在感を示すことができないと考えるからだ。

彼が指揮したことで、世界で初めてという製品が既に幾つか世に出ている。しみ抜きや部分洗いに特化したハンディ洗濯機「コトン」(個人だけでなくレストラン等にも需要あり)。水や洗剤を一切使わず、オゾンを利用して除菌消臭する衣類エアウォッシャー「ラクーン」(ホテルなどに売れているようだ)。等々。

そんなアクアで新たに開発が進められているのが、外装が透明で洗濯槽が丸見えの「スケルトン洗濯機」。完成すれば世界初となる、まるで水槽のような洗濯機だ。「中身が見える洗濯機があったら面白い」という伊藤さんの一言がきっかけだった。

開発にあたっているのは、元三洋電機の技術者たち。しかし、何十年と洗濯機を作り続けてきた彼らにとって、洗濯機とは「衣類の汚れを落とすもの」。中身を見せるという発想は、理解しがたいことだった。サンヨーの洗濯機は歴史が古く、柱の一つだったため、「素人の発想」に対する無言の反発も強かったろう。

さらに実際のところ技術的な壁も高く、中身を見せるためには、洗濯機の構造を根本から変える必要があった。つまり「やったことがない、考えたことすらない」世界だったのだ。世界初のスケルトン洗濯機を目指す開発現場をカメラは半年にわたって密着した様子は苦闘の連続だったようだが、日本と東南アジアで発表された「世界初」製品に対する消費者と流通の評判は悪くなかったようだ。

2人目は若い女性の「独りメーカー」。2015年8月、第1弾として一挙に17種類もの製品を発表した、家電ベンチャー、UPQ(アップ・キュー)である。立ち上げたのは、中澤優子さんという当時30歳の女性だ。とにかく彼女の度胸やバイタリティにワクワクしてくる。

中澤さんは大学を卒業後、携帯電話の開発に携わりたいとカシオに入社。その後、カシオが携帯電話事業から撤退したために退職したが、モノづくりへの夢が諦めきれず、自分で家電ベンチャーを立ち上げたという猛者だ。

中澤さんがたった一人でモノ作りができる秘密はどこにあるのか?彼女が向かったのは、部品工場や組立工場の集積地である中国・深圳。中澤さんはこうした工場に商品のアイディアだけを渡し、設計から生産まですべてを任せていた。日帰りや1泊2日のスケジュールで頻繁に現地を訪れ、工場と交渉。製造を依頼するだけでなく、開発途中の製品をチェックし、改善点を指示していくのだ。製品ごとに様々な工場に設計や生産を並行して依頼するため、一度に多くの製品を生み出すことができるのだ。

しかもセンスや着眼点が優れている。透明な板にアルファベットが浮かび上がるキーボード、スマホを使って色や明るさを調整できる電球など、可愛らしいデザインだけでなく、機能的にも他にないアイディアが備わっている。「このユニークさがシャープでしょ?」と昔よく聞いたセリフが蘇る。

日本の大手企業の場合、担当者が本社に指示を仰いだり、一度持ち帰って検討したりするため、開発スピードがのろい。彼女の場合はその場で即断していくため、開発のスピードが速い。いやむしろ小気味いいといってよい。中澤さんは、第2弾の製品群を2月末に発表しようと動いていた。驚異的なスピードで斬新な製品を数々生み出す、彼女のモノ作りにカメラは迫ってくれた。実に素敵だ。

しかし素朴な疑問もある。なぜこのスピードと要求に付き合ってくれる日本の下請けメーカーは見つからなかったのか?いなかったのか?この点が残念だ。