生理用ナプキン製造機を作った男は同時に貧困社会とも闘っている

グローバル

7月10日 木曜深夜に放送された「発掘アジアドキュメンタリー」は『生理用ナプキン製造機を作った男~インド~』。何度も再放送されており、それだけ評判がよかったのでしょう。とてもいい番組でした。

妻が生理用ナプキンを使っていないと知り、ショックを受け、低コストで衛生的な生理用ナプキンを作るために一念発起し、インドを生理用ナプキン使用率100%の国にすることを目標に奮闘する男の物語です。男の名はアルナシャラム・ムルガナンサム。

インドの農村部では、外国の大手メーカーが製造・販売する生理用ナプキンは高価で、庶民には手が届きません。インド全体で生理用品を使用する女性はわずか1割に過ぎず、そもそも生理用ナプキンの存在自体を知らない人が大多数だといいます。ほとんどの女性は布や新聞紙、植物や灰・砂(!)などで代用するため、衛生状態が保てず、感染症や深刻な婦人科系の病気の原因になっているといいます。

しかし、古くから女性の生理を「けがれ」と捉える風習が根強いインド社会では、生理の話をすることさえタブー。女性に協力を求め、安全で快適なナプキン開発のために試行錯誤するムルガナンサム氏は変人扱いされ、友人にも妻にも去られてしまいます(ああ何と哀れな)。

その後8年かけて独自の生理用ナプキン製造機を完成させた彼は、女性自らがナプキンの製造と販売を行うという事業を立ち上げました。しかも貧困に苦しむ女性たちに新たな雇用と収入を生み出そうと考えたのが凄いですね。

貧しい農村部の女性に購入してもらうためには、第一に製品が良くて、第二に安くなければなりません。

製品のクオリティの問題にはどう対処したか?ムルガナンサム氏が苦心したのは、ありふれた天然の安い材料を使って、高品質のものを作ること。実は生理用ナプキンには綿は使われていないそうです。大手メーカーは科学繊維のセルロースを、それに対しムルガナンサム氏は松の木から作ったセルロースを使います。天然素材だからかぶれ防止用の薬剤も必要なく、安心です。作り方にもコツがありそうです。

番組冒頭にムルガナンサム氏が来日して日本のナプキンメーカーのスタッフと面談する場面があるのですが、そこで「日本のナプキンは1個800円。女性は年間5000円使う」と、メーカーの人がさらっというのです。この金額、インドの人にとっては目を剥く値段ですが、メーカーの人は気付きません。

この製造コストの問題にはどう対処したのか?普通だったら機械化の「大量生産」という手段を採るのですが、彼はそうしませんでした。問屋制家内工業という、前近代的な製造方法を敢えて採用。わずか3工程で製品が作れる手動の機械を造ったのです。そしてこれを起業家精神に燃える女性グループに売って歩いたのです。製品ではなく、機械を売ったのです。

機械を買った女性たちが、自らナプキンの製造と販売を行う事業を立ち上げるように仕向けたのでした。それによって貧困に苦しむ人々に新たな雇用と収入を生み出そうと考えたのです。BOPの発想です。小規模の分散型事業にすることで、製造コストを下げて低価格を実現するとともに、多くの人に利益が分配される仕組みを作ったのです。先進国のメーカーにはなかなか思いつかない、素晴らしい発想です。