特殊詐欺・強盗の実行犯が騙される理由

社会制度、インフラ、社会ライフブログ

高齢者をターゲットにした特殊詐欺や強盗の被害が相次いでいます。最近の事件の傾向は、特殊詐欺は手口が非常に巧妙化・悪質化しており、強盗事件は凶悪化しています。特に首都圏の住宅街で、同じ指示役によると見られる強盗事件が相次いでおり、住民を恐怖に陥れています。

その実行役は悉く捕まっています。彼らはSNSでの勧誘宣伝に応じて個人情報を渡したことで、逃げると自分や家族が殺されると脅されて止む無く実行した挙句、報酬は受け取っていない、と皆同様の証言をしているようです。

この事件の報道に触れた我が家では当然ながら実行犯に対し同情の言葉はなく、「いくらでも気づけるはずの仕掛けに騙されて人を傷つけ、一生を棒に振る。何と愚かな連中だろうか」とあきれ返る意見で一致してしまいました。

経緯を分解してみると、各ステップで立ち止まって逃げることができることが明瞭なのです。

第1ステップ:SNSでの勧誘宣伝。「簡単な仕事で高額報酬」という宣伝文句に引っ掛かることが愚か。世の中にそんな甘い話があったらむしろ危ないと思えというのは常識。ましてや「ホワイト案件」と自ら称する勧誘元は「嘘です」と宣言しているのに等しい。

第2ステップ:SNSでのやり取りの中で、運転免許証の画像など個人情報をいきなり送らせる要求に応じるのは随分と不用意。勧誘元がどういう会社・組織なのか確かめないまま個人情報を送る時点で「悪用してください」と言っているようなもの。

第3ステップ:コミュニケーション手段が、SNSから(SignalやTelegramなど)メッセージが一定時間後に消えるタイプのメッセージアプリに切り替わるタイミングで「こりゃヤバイ」と逃げないことがかなり鈍感。犯罪組織じゃないとそんなアプリに切り替える必要がない、と普通気づくはず。

第4ステップ:いよいよ勧誘元が正体を現して「やってもらうのは強盗だ。もし途中で逃げたらお前らと家族を殺しに行く」と脅された時点で、普通は逃げて警察に保護を求める。いくらヤバイ連中でも、彼らも忙しいのだから、いちいち応募してきた「馬の骨」のアルバイトの家に押しかけていく面倒なことをする訳がない、と考えが及ばないか。

と、それぞれのステップごとに逃げる機会が明白にあります。少し頭を使えば「この話に乗るとヤバイ」と気づくはずです。ましてや、実行犯は報酬をもらっていないケースが続出していることも最近は報道されています。

でも彼らは強盗を実行し、すぐに足がついて捕まっています(指示役以上の連中は、「使い捨て」に過ぎない実行役が逃げおおせるようには考えてくれていないからです)。

もうまともな就職はできないでしょうから、一生を棒に振ることになります。ましてや被害者が大けがを負ったり死亡したりすれば、初犯でも懲役10年以上、下手をすると20年以上とか食らいます。これほど損な役回りを(好き好んでとは言いませんが)結局引き受けることになる理由は大きく2つしか考えられません。

1つは徹底的に情報弱者で思考能力が劣っている場合です。新聞・雑誌を読まず、テレビでニュースも観ない。スマホで自分の好きな情報やゲーム等にしか触れていない。そのためこうした「匿名・流動型犯罪グループ」による犯罪(「トクリュウ(匿流)」)に関する知識がなくて、まんまと騙される、という場合です。

もう1つは、実は最初から犯罪だと覚悟している確信犯である可能性です(こちらの割合は半分以上ではと個人的には思っています)。とにかく目先のカネに困っていて、第1~4ステップのいずれでも「そうだろうな」と気づいていながら実行し、「報酬を受け取れない」という事態だけは想定していないケースです。

この連中は逮捕された後、罪を軽くしたい思いから「騙された」「脅されて仕方なかった」と言い訳をしているだけなのです。つまり本当は、「騙された」のは報酬を受け取っていないという点だけなのです。いずれ取り調べや裁判で明らかになるでしょう。