牛丼業界に見る価格戦争に戦略的見通しはあるか

ビジネスモデル

牛丼並盛を対抗値下げした吉野家は売上増には成功した。今回さらに対抗値下げした効果に乏しいすき屋と松屋はもちろん、実は吉野家も業績回復は難しい。この局面での価格政策にはより高度な戦略性が求められる。

牛丼大手3社の決算が出揃った。4月18日から牛丼の「並盛」を100円下げて280円にした吉野家は、4月の既存店売上高は前年同月比11.1%増加し、客数も13.6%増と16カ月ぶりでプラスに転じたという。しかし280円から250円に対抗値下げしたすき家と松屋は効果が限定的で、既存店売上高は20カ月連続減(すき家)、13カ月連続減(松屋)と前年割れした。

これだけ見ると、しばらく値下げを我慢していた吉野家が「値下げのインパクト」を享受し、業績回復に成功したと判断する人も多いだろう。小生はそうは見ない。そもそもこの吉野家の4月の値下げは決して戦略的なものではなく、追い込まれての「苦し紛れの手」であると見ていた。そして多少の売上増にはなるが、利益はむしろ削られると見た。
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上記のプログを書いた際には、予測のために置いた前提として、牛丼の粗利率を50%、値下げの売上増効果を「仮に高めの20%Up」とした。それでも粗利が44%も減少するという結論だった。実際には売上増効果は現実的な11%強だったわけだから、粗利はさらに縮小することになる。

小生は牛丼の実際の粗利率は知らないし、もしかすると、とんでもない数値なのかも知れない。ここは同社に敬意を表して値下げ前は仮に75%だった、つまり元の価格380円に対し粗利が285円もあったとしよう(真実は多分、前のブログの前提と今回の試算の間にあるのだろう)。しかし価格を380円から280円に下げると、原価95円は変わらないので、粗利は一挙に185円に縮小する。売上は11.1%増だったのだから、粗利合計は(285円×100→185円×111.1となり)元の72%に縮小し、やはり利益は大きく棄損したことになる。

つまりこの値下げは元々、利益が減る可能性がかなり高いものだったことがわかる。では何故、吉野家の経営陣はそんな価格政策を採用したのか。一つには「追い込まれて」の手だと申し上げたように、来店客数がじりじりと落ちていたのかも知れない。だから起死回生策を打ちたくなったのだろう。

もう一つ、業界関係者が語るのを聞いた限りでは、2月に米国産牛肉の輸入規制が緩和されたことから、輸入牛肉価格が大幅に安くなると期待したようだ。だが実際には大幅円安により、その期待は裏切られている。しかも原料だけでなく、賃料や光熱費なども値上げの方向だ。

こうして見てくると、さらに対抗値下げしたすき屋と松屋はもちろん、今回の値下げで客数と売上を増やした吉野家も、利益を大幅に減らすことが見えている。世の中がデフレからインフレに切り替わる時には、単純な値下げは自らの首を絞める行為だということがよく分かる。だからといって単純に同じ商品を値上げすれば、商品特性と業界のチキンレース状況から見て、大幅な売上減を招くことも明らかである。

つまり客数を維持しながら実質値上げをどうやって実現するか、メニュー構成を根本的に見直すべきなのだ。この局面での知恵の見せ所だと思う。