求められる仮説検証(2)戦略仮説の検証とはどういうものか

ブログビジネスモデル

(以下、コラム記事を転載しています) ****************************************************************************

仮説検証の必要性について改めて訴える「求められる仮説検証」シリーズの第2弾。「戦略仮説の検証」というものはどういうことを行うのかを具体例を使って紹介したい。

****************************************************************************

前回の記事にて、「戦略仮説」とは戦略策定または戦略的イシューに関わる仮説であって、自分たちが『こうじゃないか』と想定している事柄(刑事事件でいえば「容疑」)であり、まだ事実だと立証・確認できていないものだということをお伝えした。

そしてその検証というのは、その仮説が『本当にその通りなのか』と、別の切り口から裏付け確認すること(刑事事件でいえば「裏付け捜査」にあたる)だということもお伝えした。

これで「なーるほど」と大半の人が理解、納得してくれるなら、こんな楽なことはない。でも現実には「で、その『裏付け確認』って具体的にはどういうことをするのさ?」という突っ込みが今にも聞こえてきそうだ。

小生は以前にも、このコラム記事で「仮説の“検証”とはどんなもの?」シリーズの実例その1その2その3で具体的なケースを挙げて説明したのだが、やはり「そのケースでの話は分かった。でも他のケースではどうなの?そもそも幾つくらいのパターンがあるの?」と親しい知人から突っ込まれたことを覚えている。

戦略仮説の検証パターンは実に多様で、多分、戦略仮説のパターンの数だけ存在し、日々新しい戦略仮説が後から後から生まれ続けているから(まるで目新しい事件が日々起きているようなものだ)、検証パターンが幾つくらいあると明言することもできないのが実情だ。

仕方ないので、ここでも具体例を使って「戦略仮説の検証とはどういうことをするのか」を説明してみたいと思う。しかも先に挙げた実例その1・その2・その3で解説したパターンとなるべく違うものとしたいし、通常我々が行うように何段階にも分けて検証を行う実態を伝えたい。

なお、この具体例はあくまで「一つの例」に過ぎないことはもちろんだが、当該事例に係るクライアントの固有情報を伏せながらの解説となることをご了解いただきたい。

ここでとりあげる事例は弊社の得意パターンの一つ、「クライアントが持つ技術を基に、○○の領域で新規事業を開発できるのではないか」といった類の戦略的イシューに関わるものだ。

具体的には、ある大手企業が保有するハイテク技術をベースに、想定する用途領域にて有望なサービス市場の候補を特定したいというものだ。

このケースは、「ビジネス機会の洗い出し(と1次評価)」「深掘り検討と優先領域決め」の2フェーズで進めた。市場規模を弾き出す作業が膨大になり過ぎるのを避けるため、その対象となるターゲット候補市場をある程度絞る必要があったのだ。

フェーズ1「ビジネス機会の洗い出し」は「当該用途領域で汎用的に想定されるプロセス」×「産業分野」の2次元マトリクスで考え、思いつくだけ徹底的に洗い出すことから始まった。

「想定する用途領域」自体はクライアントとの初期議論である程度絞り込んだ訳だが、それでもかなり広範囲の用途を含むものではあった。そのため「ビジネス機会の洗い出し」について完璧に網羅的な検討は難しいことを提案段階で共有した上で始めている。

とはいえ、良質は量からしか生まれない。実際、弊社側の内部検討では「当たり前過ぎてつまらない」ものや「冗談としか思えない」とか「SFの世界か、数十年後にしか実現しないだろう」とか思えるものも含めて出し切った上で、まともに取り合ってもらえそうな約20のアイディアを最終的には1次候補として俎上に挙げた。

そしてそれぞれのアイディアに利用業界・場面や価値を感じるポイント等を肉付けすることで「ユースケース」として想定し、誰でも分かるようにイラスト仕立てで説明を補強した。

ここまでがこのプロジェクトのフェーズ1の前半(ステップ1)だが、この段階で既に「課題仮説」と主な「打ち手仮説」が出揃っている。

「課題仮説」に相当するのは(Beforeである)「現状のあり方」と「現状の課題・ペイン」であり、「打ち手仮説」に相当するのが(Afterである)当該の技術適用の内容(ユースケース)であり、それによって「誰」にどんな「価値」が生まれるのかを説明した部分だ。

ではこのプロジェクトでは、そうした戦略仮説をいかに検証したのか。

まずはプロジェクトメンバーとの数度の議論を通じて「本当に従来手段よりユーザーにとって格段に便利になるのか」「本当に各関係者にとって経済的にメリットが出るのか」という具合に一部の視点を深掘りすることで「0.5次の仮説検証」をしている。

この過程で、視点に「抜け」があるとか「ちょっと不明確だな」と思えるところは補足、またはユースケースを修正している。

その上で、フェーズ1の後半(ステップ2)においてプロジェクトメンバー総出で、各ターゲット候補である用途市場に対し評点付けを行っている。評価条件は「技術適合性」「領域魅力度」など5分類で、具体的な評価軸は10個ほどあった(個々の説明はここでは省く)。

この評価の議論を通じて、いわば「1次の仮説検証」を行ったことになる。なぜなら評価の視点を細分化することで、それぞれについて「本当にそうか?」を改めて問うたことになるからだ。

実際、0.5次の検証時にはまったく気にしなかった「価値」の一部の側面に気づかされて評価が途中で大きく変動したターゲット候補市場が続出した。

このプロジェクトではフェーズ2の前半(ステップ3)にて、ターゲット候補市場のそれぞれに対し相応しいビジネスモデルを想定した上で、市場規模を算出する作業を行っている。

その過程で、想定顧客が「本当にそうした強いニーズを持っているのか」「もしこうした新しいサービスが登場したら、お金を払ってまで使ってくれるのか」を探るため、想定される顧客像にプロファイルが最も近い人たちにヒアリングしたり、その既存コメントをSNS上などで探し当てたりしている。または当該顧客層の行動に詳しい専門家の人たちにヒアリングすることもあった。

これは「2次の仮説検証」にあたる。ここで重要なのは、それまではプロジェクトメンバーによる検証(いわば身内による評価し直し)だったのが、この検証では外部の意見という「より客観的な証言」によるものだったことだ。

このケースではフェーズ2の後半(ステップ4)にて、フェーズ1でかなり絞られたターゲット候補市場に対し優先度を決めるため、再度の2次評価を行っている。つまり「3次の仮説検証」を行った訳である。

評価軸そのものはほぼ同じだったが、ビジネスモデルの詳細が明らかになった後でもあり、それぞれの期待市場規模も明らかになった後でもあり、「本当にそうか?」について深い議論ができたと思う。

そしてクライアントはプロジェクト終盤に、優先と決められたターゲット候補市場に対する適用を前提に、PoC(概念実証)という作業を行っている。ここまで概念上だけで考えてきた技術適用のコンセプトを簡単なプログラムに落とし込んで、技術的に実現可能なのか、費用対効果は見込めそうなのか、等といった観点で確認する作業だ。これは「4次の仮説検証」にあたる。

ようやくこれで仮説検証が終わったと考えるのはまだ早い。この検討プロジェクトの後、クライアントは、最優先と決められたターゲット候補市場に対する導入を前提に、実証プロジェクトを行っている。

そこでは実際にある程度のシステムを組み上げ、対象範囲は限定するが、実地でユーザーに使ってもらい、本当にお金を払ってまで利用するのか、使い勝手などで不平・不満は出ないのか、サプライチェーンもしくは関係者がちゃんと機能するのか、等々を総合的に検証している。

これは「5次の仮説検証」にあたる。実際の市場導入はそれからだ。

以上、幾つもの仮説検証が段階的に行われ、戦略仮説の確からしさの裏付けが取られていることがお分かりいただけよう。そして、ここで説明した検証頻度は例外的なものではなく、弊社が関与するプロジェクトでの典型的なものだということを付け加えておこう。